お人好し=善人?
「特別な相手」以外からやられると腹の立つ行為のひとつが「甘えられる」なのだけど、もし「特別な相手」から甘えられると、もうノーリミットで受け入れたくなる。
主人公の“一等くん”は東京のはずれ、よりもさらにその先。山梨県上野原市に暮らす高校生。「欲しいものはスマホ」とハキハキ言ってしまう、お金はあまりないけど、働き者でお人好しな男子だ。
いつもなら、ここで「がんばれ一等くん!」くらいは思うはずなのに、私の気は重い。それは彼の「行い」がどうも気になるからだ。
「日頃から良い行いをしていればいつか自分に返ってくる」というのは、私の中にいる性格の良くない善意ポリスと屁理屈マッチョに言わせれば、善意と呼べない。もちろん偽善だとは思わない。でも見返りを求めている時点でほんの少しさもしい。ごめんな。
とにかく彼を善意マンとは思えなかったし、世の中そんなに甘くないよと心配になるし(実際彼は随所で都合よく使われている)、同時に、こんないたいけな男子高校生に、私はなんて意地悪なことを考えているんだろうか、と思っていた。
ところが、ですよ。『ダメな彼女は甘えたい』の「ダメな彼女」こと隣人の"ひふみ先生"が彼の日常に現れてからは、事情はガラッと変わります。
ひたすら「いっとーくん優しい! ああ最高!」とほめたたえたい。そして「ひふみ先生はダメじゃない!」という気持ちもガンガン高まる。で、何度読み返してもひふみ先生のダメなところが全然わからなくなり、おっかしいなあ……とまで思う始末。でも本当にダメじゃないんですよ。
ダメな彼女がダメじゃないところ:可愛い
まずはこれ。フェロモンと男子の夢を煮詰めて作ったお砂糖菓子のような姿形で、表紙も頭のてっぺんから爪先までフルでむっちゃくちゃ可愛い。各話を読み始める前に「うわーん、今日も可愛いよー」と降参してしまう。ちょっと性に敏感な男子も多分クラッとくるだろう。一番可愛い画像を探したが、可愛すぎて選べないから正直全ページ載せたいくらいだ。
是非ひふみ先生の圧倒的ビジュアルをフルに浴びてほしい。
ただ、日常の先生はこうです。
これはこれでなんか親近感ある……。それに先生のビジュアル強者ぶりはこの作品の魅力を語る上では一部の要素。ダメじゃないところはまだ続きます。
ダメな彼女がダメじゃないところ:仕事をがんばっている
ひふみ先生の職業は漫画家。締め切りに追われ、自分の過去作のヒットに戸惑い、それでも日々よりよい漫画を描きたいと奮闘する女性です。
一等くんは、ひょんなことからひふみ先生の「ごはん係=メシスタント」として雇われるのですが、食事だけでなく、かいがいしくお世話にはげむことに。
一等くんの手厚いサポートのもと、ひふみ先生は頑張ります。あちこちから漫画制作における苦労と喜びがたくさん伝わってくる。
ひふみ先生、かっこいいよ。
ダメどころか良い:内面もかわいい
引っ込み思案でオタク気質なひふみ先生ですが、たまにはやきもちを焼くことも。
この顔! 甘えの亜種! 待受にしたい。そういえばひふみ先生の周りには一等くん の他にも「優しくていい人」がとても多い。読んでいてとてもなごむ。ま、これも先生の愛らしいお人柄ゆえのことかなと思います。
最高だ:甘えん坊だけどお姉さん
一等くんはまだ高校生。彼の人生とって大切な局面では、ひふみ先生はいつもの「甘え」をおさえる優しくて大人な一面もあります。
年上のお姉さんっていいわ……。
ひふみ先生を甘やかそう
ということで、終始ホッコリできる漫画だ。タイトルは先ほど書いた通り『ダメな彼女は甘えたい』なんですけど、これ「甘やかしたい」漫画でもあるんですよね。冒頭で私がグチグチと書いた一等くんの「善意の姿勢」が見事に吹っ飛んでゆくさまは鮮やかです。
メリットなんて考えもせず、なんとなく好意と無意識でひふみ先生をズブズブに甘やかしてます。
この一等くんの動揺。そうそうこれだよ! こういう「なんとなく」「楽しくて、相手が気になって」やってしまうこと。立派な依存。これがたまらなく素敵。
最後に引用するこのシーンも大好きだ。いつも甘えてばかりのひふみ先生が、甘やかしてくれる一等くんに「特別なご馳走」をする場面。
ここを読むと、理想的な「甘え」と「甘えられ」を感じる。そして、「特別な相手」ってこういうことだよね、と思うわけです。2巻も楽しみ。
レビュアー
元ゲームプランナーのライター。旅行とランジェリーとaiboを最優先に生活しています。