ゲーム会社で働いていたころ、当時のボス(生き物好き+詳しい)と、生き物の姿やふるまいについて「なんでこんな仕様になっちゃったんでしょうねえ」と雑談するのが好きだった。ゲームに登場するキャラクターのデザインや仕様として考えると「よくこんなデザイン通った(=世に出た)なあ……」と思わせる生き物がたくさんいたのだ。
この世には、人間から見るとキレキレのデザインに思える生き物もいれば「なんでまたそんなことに?」みたいな生き物もいて、どちらも面白くて尊いのだが、とくに後者の「どうしちゃったのソレ」は、いくら考えても飽きない。
それに、どうしても「同じデザイナーの作品」と思えなかったのだ。たとえば、かつて「都会的でゴージャス」というイメージだったグッチが少し前に「ちょっとご乱心」なデザインに変わりザワついたが(結局それも大人気らしい)、これはデザイナーが交替したことによる変化だった。生き物に対しても、そういう「作り手」の意思や存在をどうしても想像してしまう。
なので、『天地創造デザイン部』の存在を知ってまず思ったことは「同じこと考えてる人、いた!」だった。
これは、この世を作りたもうた神と、その委託先「天地創造デザイン部」のみなさんが、私達の世界に生き物をリリースしてゆく壮大な物語である。
最後のコマに注目。「クライアントと下請けのスムーズな連携なんて無謀ね」なのだ。彼らの生みの苦しみと傑作なお仕事例を見てゆきたい。
納品例:キリン
最初の案件はみんなが知っているキリン。いいねー! キリン、謎の仕様だらけ!
発注→デザインと仕様の確定→納品までの流れを見てゆきたい。まず神様(クライアント)からの発注内容とデザイン案がこちら。
依頼は「すっごい高いところの葉っぱが食べられる動物」なので、読んでるこちらは「ははーん、キリンね」と察するが、キリンをゼロから創造するデザイン部メンバーはまだキリンを知らない。クライアントのふんわりしたオーダー(どの業界も同じなんだな)を具現化するのが彼らの仕事だ。
デザイナーの個性が滲(し)み出た案が出される。
各人の案に対するフィードバックも良い。そうそう深海って独特の生き物が多い……。そして、代表作が「カンガルー」の"海原さん"の案がこちら。
「首長ジカ」!
近いぞ!
案が出揃ったところで次は「エンジニア」の出番です。
どんなに見た目がイケていても、地上で生きていけないと意味がないのだ。重力や繁殖能力についての検証が入る。ちゃんと作られているんだなあ……。(この事情によりペガサスは万年ボツを食らっている)
首長ジカも当初のデザインではリリースが難しい。
1.5トンの心臓はちょっと現実的ではない。ここからみんなで知恵を出し合い「首の長さ」「脚の長さ」「葉っぱだけで生存できる仕組み」などの修正を加え、晴れて「キリン」が納品される。この達成感……!
「生きていくために、ここはこうしよう」の修正案を読むと、おなじみの動物でも知らないことだらけなのがわかる。
発注例:「かわいくて、かわいくない」
神様の思し召しから「今回の納品物」を想像するのは楽しいのだが、前述した「キリン」のようにパッと思いつく案件はなかなかない。むしろ実在の生き物のはずなのに「マジで実在するの?」という生き物も多い。
例えば「かわいくて、かわいくない」という案件を担当した“冥土ちゃん”(毒カエルが代表作)の作品。
ノリノリなのはわかるが、何を作っているかわからないし、ヤバい。
そして出来上がったのがコチラ。
「天啓です! =採用」だ。しかしこちらの動揺は収まらない。このあと各話の最後にある「生き物図鑑」で、冥土ちゃんが考えたヤバい仕様についての詳しい解説を読める。
コアラ、すごいんだね……。
コミカルに「最新の知識」に触れられる本作は国内外の最新の研究資料にあたって描かれている。(巻末に参考文献と監修協力の一覧がある)
デザイナーたちの頑張りをコミカルに読みつつ、生き物に関する知識がたくさん得られるのだ。おかげで私は「シマウマ、なんでシマシマなの?」の説がアップデートできた。幼い甥に尋ねられたら「最新の動物にくわしい伯母」としてシマウマを語れるわけだ。いっぱい語りたい。
数ヵ月前に書店で本作の第1巻を見つけたとき、すぐに「生き物が大好きなボス」に「こんなマンガがあります!」と伝えた。1巻を読んだあとのボスの感想は「くやしいなー」だった。「くやしい」は、クリエイターが他者の作品を褒(ほ)める際の言葉として最上級の部類に入るものだと思う。
『天地創造デザイン部』は月刊「モーニング・ツー」(毎月22日頃発売)にて好評連載中!!
レビュアー
- 元ゲームプランナーのライター。旅行とランジェリーとaiboを最優先に生活しています。