踊ってみたカルチャーって、こんなに面白いんだ!
読み終わってから答え合わせがしたくなって、「踊ってみた」で検索してみました。投稿動画数はなんと約15万本、その中でも人気作は500万回以上再生されています。アニメやアイドルグループの振り付けをコピーする有名ユニットの存在は認識していたのですが、振り付けまでオリジナルで作り込んでいる方々がいることを初めて知りました。
本作は、自室からニコニコ動画の「踊ってみた動画」を発信する男子高校生の成長を描く、青春漫画です。インターネット文化や振りコピに興味がある人に、まずオススメしたいです。
人見知りで根暗な男子高校生・花澤緑多は、クラスに馴染めず憂鬱な日々を送っています。自らの存在を消し、教室でも空気のように振る舞う緑多。「自分はコミュ障だから」と、人と関わることを諦めています。
そんな彼はある日、公園でひとり踊っている少女に遭遇します。羽がはえているかのような軽やかなダンスに、すっかり魅了された緑多。彼女はネット上で大人気の踊り手、すまいる☆でした。
一目惚れした緑多は、すまいる☆のダンス動画を徹夜で眺めます。そこで、匿名でありながらも自由に自己発信する“踊ってみた”カルチャーに、のめり込んでいく。
空気圧ヒナタとして踊ってみたデビューするシーンでは、視聴数0の状態で動画配信を続ける緑多の強さが描かれています。一般人がインターネットで発信し始める時って、最初は孤独なんです。アクセス数やコメント欄に一喜一憂しながら、徐々にファンとコミュニティーを作っていく。その過程は、ブログも、SNSも、動画サービスも同じですね。
見てくれる人が少なかったとしても、まずは継続発信することが大切。試行錯誤しながら、自分のスタイルと手応えを掴(つか)んでいくんです。このシーンで、緑多のクリエイターとしての基礎体力や素質がはっきりと示されている。誰も見ていないのに、下手なダンスを配信し続けるなんて、相当タフじゃないとできません。また、ちょっと突っ込みたくなるヘタレ感が漂っているのもポイント。周囲が応援したくなる要素を持っているんですよね。
高校生の頃って、学校が自分の全てだと感じてしまう場合が多いと思います。そこがうまくいっていないと、この世の終わりに思えてしまう。でも、外の世界にちょっと目を向ければ、自分が輝ける場所を見つけられるんですよね。
実在するサービスをモチーフにした作品とあって、ニコニコ動画のUI( ユーザーインターフェース)が細かく書き込まれていたり、サービスの仕様についての注釈が丁寧だったり、読んでいるだけでどんどん知識がついてくるのが楽しいです。
緑多のように生活感が溢れる部屋の中でダンスを披露する踊り手さんも多く、ダンスのキレはもちろんのこと、その人となりを想像してしまいます。こうやってファンになっていくのか、と関心しました。スマートフォンで手軽に撮影した動画も多数あり、やってみようと思えばすぐに参加できるのも魅力的ですね。誰にでも門は開かれています。
2巻からはインターネットを飛び出し、ストーリーもリアルの世界へ。「踊ってみた」のイベントへの出演依頼をきっかけに、緑多は初めてのライブハウスへ行くことになります。いつもオドオドしている緑多にとって、人が多い空間なんて苦痛でしかないはずなのに、ネットの世界で一歩踏み出したことが、現実での行動の変化に繋がっていく。そしてライブイベントを通して、人気最上位の踊り手たちとの交流が生まれます。
後半では、動画の再生数が少なかった方が踊り手を引退!という、突然のダンスバトルも勃発。自分の居場所を見つけて、成長していく緑多と、すまいる☆の関係性がどうなっていくのか? 踊ってみた界でのスターダムにのし上がっていくのか? 今後も楽しみな作品です。
レビュアー
OL/小沢あや ライター。ウートピ連載「女子会やめた。」「アイドル女塾」のほか、キャリア・ライフスタイル系のメディアを中心に執筆中。