倉薗紀彦さんの漫画は丁寧な絵とテンポの良いストーリーがとても好きで、新刊を楽しみにしていました。チラッと表紙を見たときに「スーツ系! 絶対これは好きだぞ。今回こっち系か!?」と心の中でガッツポーズして、ニヤリとしました。アメコミが好きなのでスーツやマントのデザインを見るとそれだけでワクワクします。
タイトルのオートマトンとは何だろうと検索してみたら、12世紀から19世紀にかけてヨーロッパなどで作られた機械人形や自動人形のこととありました。「自らの意志で動くもの」という意味合いもあるそうです。(参照:https://ja.wikipedia.org/wiki/オートマタ)
■近未来東京で起こるロボットと共存する世界
漫画の舞台は、近未来の東京。そこはロボットと人が共存する超格差社会。非正規雇用比率が7割を超えているという。
主人公はロボティクスが好きな高校生・明(アキラ)。両親を幼い頃に事故で亡くし、高校生活とバイトを両立しながら、叔母と共に暮らしている。叔母の厳しい態度に辛さを感じていますが、元来の優しい性格のせいか、不条理を受け入れているように見えます。同居する寝たきりの祖母は、明がお世話をしています。
■密室で起こる事件、主人公に迫られる選択
そんなある日。偶然、バイト先にトマ・ロック博士という世界最大級のロボティクス企業のCEOがやって来て、明を誘拐します。目が覚めるとそこは閉鎖された空間。ひとりの一般市民を助けるか、5人の元犯罪者を助けるか迫られます。
悩みに悩んだ結果、明は自分の肉体を犠牲にして、どちらの人間も救うことに成功します。一旦意識を失い、再度目覚めると、目の前にはトマ・ロック博士。事のすべてを知ることになります。
明は28型装甲戦闘機体「オートマトン」の操縦者になります。トマ・ロック博士に世界の希望となれと諭される明。訓練もそこそこに、現場へ飛ばされていきます。
装甲戦闘機体とは、操縦者が遠隔でオートマトンと呼ばれるロボットを操縦する仕組みです。オートマトンの中に入って操縦しないところに面白さがある設定だなと思いました。コントローラーで操縦するのではなく、全身スーツを操縦者が着ると、精神がロボットの方へ転送され、操縦できるようになります。
オートマトンと操縦者は10km以上離れることができないため、操縦者がスーツを着て接続可能範囲内のどこかにいることになります。
精神が転送されていますが、オートマトン自体は圧倒的な破壊力を持ち、俊敏な動きが可能です。操縦者がオートマトンの性能を理解し、拡張された能力を使いこなせるようになると、操縦者以上の運動性能を引き出すことができるのです。
■「痛みのない戦場」を想像して
よくあるヒーローの設定だと、ロボットやマシンの中に操縦者が入るか、ヒーロー自体に特殊な能力があるか、ヒーロー自体がマシンになるか、ヒーローが生身の能力を拡張するスーツを着るか、の設定が多いですが、今回は遠隔から操縦するという設定です。ここが面白いなと思っていて、本人はロボットとの精神リンクにより痛みは感じつつも、直接的に大けがをしたりすることがありません。10kmという条件は付きますが、距離を保つことができます。
現実でも軍事用ドローンや遠隔からのミサイル攻撃をニュースで見ることがあります。オートマトンの設定は近未来なので、とてもしっくりきました。反面、もしオートマトンのようなマシンが世界中にいたとしたら、傷つかない操縦者同士が戦うとき、戦場は肉体の痛みがない世界になるのかもしれない。肉体の痛みがない戦場の道徳はどこにあるか、人の心はその事実をどう感じるか。もっと広げて想像すれば、優秀な操縦者を探し出し、隠密に殺してしまうような作戦も立てられてしまうかもしれない。
ヒーローではある。これは間違いない。ただし、そのヒーローは誰にとってヒーローなのだろう。遠隔から操縦するという設定には想像が広がる。いくつもの想定を考えてしまう。きっと今後のオートマトンの漫画の中で、遠隔操縦者としての明の葛藤が描かれていくのかなと思いました。
賢く優しい少年・明は、施設で父が元科学者だと知り、家族の過去や事件の闇に引き寄せられていきます。オートマトンのシステムは自分の能力を超えた力を明に与えます。明の正義心と共鳴し、明は運命を受け入れるように、オートマトンとして戦うことを選びます。
現在を感じる王道のヒーロー漫画であり、アメコミのような爽快アクション漫画です。近未来のSF的な世界観もしっかり描かれており、ぐいぐい引き寄せられました。
キャラクターのデザインや設定、描き方など、すべてがとても丁寧で、連載前にたくさんのサンプルを描いて何度も推考しながら生み出した漫画なのかもしれないと想像できました。
画力がある著者の画面構成は読んでいてまったく飽きません。キャラクターの魅力的な設定だけでなく、各キャラクターの描き分けが丁寧なので、とても読みやすく感じました。アクションシーンも余白と線のバランスが気持ちよく、何度も読み返したくなります。漫画でありつつ、イラストレーションとしても成立する美しい絵が続きます。
■「間」が魅力的な演出をする
今回の『AUTOMATON』1巻は、明がオートマトンの操縦者になるところをとくに重点的に描いています。もともと訓練を受けてきた戦士というわけではなく、まだまだひ弱な少年ですが、街を救う光になる運命を選びます。今後、どのように明が成長していくか、両親の事故の真相は、トマ・ロック博士とは何者なのか、気になる伏線がたくさん隠れた巻でした。
ロボ好き、マシン好き、ヒーロー好きにもたまらない漫画なのではないでしょうか。ちなみに時折挟まるクスッと笑える独特なテンポの抜けのあるコマ。
個人的にこの独特の間が好きです。ゲラゲラ笑えるギャグではないのですが、「間」がふっと読者の力を抜いてくれます。勢いと重さのあるアクションの間にすっと挟まるので、画面に「なんかいい」という空気を感じます。
毎回事件を解決する方法が面白いので、レビューには書きませんでした。ぜひ実際に読んでみてください。数多くの解決方法があり、読み応えのある1冊です。
レビュアー
AYANO USAMURA Illustrator / Art Director 1980年東京生まれ、北海道育ち。高校在学中にプロのイラストレーターとして活動を開始、17歳でフリーランスになる。万年筆で絵を描くのが得意。本が好き。
https://twitter.com/to2kaku