最初の数ページを読んだだけで、あっという間に違う世界に連れて行ってくれる、それがこの『図書館の大魔術師』(※「図書館」の漢字は「くにがまえに書」)。とにかく、画が美しいのです。
画を描いているのは、大ヒットした「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」のコミック版を担当した、泉光(いずみみつ)氏。
でも、こちらは架空の世界が舞台のファンタジーなので、衣装や宝飾品や草花や図書館の細部まで、それはもう丁寧に描かれていて、思わず「ふわぁ?」とため息がでます。
さらに、どのページを見ても、主人公の"耳長"ことシオ=フミスという7歳の男の子が、胸キュンの可愛いさなのです。
2次元キャラに特に興味のない私でさえ、くるくる変わる表情に「か~わいい」と思ってしまいました。
“耳長”は、人とは違う緑の目に金髪、長く尖った耳を持ち、対立する2つの民族の血を受け継いでいるため、偏見やイジメにあっています。だからこそ「いつか自分の前にも主人公が現れて、この嫌な世界から冒険に連れ出してくれる」と信じているのです。
そんな耳長が出会ったのが、中央図書館で司書(カフナと呼ばれている)をしている17歳のセドナ=ブルゥ。本の都アフツァックの中央図書館には、大陸すべての本が揃っていて、本を護るために選ばれたのが、司書なのです。
──書を護ること、それは即ち世界を護ること──
そんな使命を担ったセドナたち4人の司書は、魔術書を回収するため、耳長が住むアムンの村に遠征してきます。
朝から寝るまで働きづめの姉のお陰で、貧民街ではただ1人学校に通っている耳長は、「僕はあのとき、本の中に入っていた──」というほど本が大好きな男の子。
しかし、貧民街の人間は本を盗むに違いないと、村民のための無料の図書館に入ることすら許されていません。
そのことを知ったセドナは、「本には、あらゆる者の一生を大きく動かす力がある」と言って、世界のために戦った大魔術師と図書館の物語が書かれた大切な自分の本を耳長に貸すのでした。
このセドナは、時々、かっこつけた言葉を発するので司書仲間から「恥ずかしい奴」と茶化されることもあるのですが、名言も多いのです。
私の心に一番響いたのは、「自分を過小評価しちゃダメだ。君にしかできないことが、必ずある」という言葉。これは、私自身、何度か周りから言われたことがある言葉だったので、ハッとしてしまいました。
こうして物語は、耳長とセドナを中心に進むのですが、それと同時に魔術書の話も出て来ます。
実は司書たちがこの村にやって来た理由は、魔術書を回収することだったのですが、どうやらこの先、世界の危機が訪れるようです。
今から、膨大な物語になりそうな予感がします。なぜなら図書館には、12の室と呼ばれる部署があり、第1巻に出てきたのは、守護室、渉外室、修復室の3室のみ。つまり今後、9室が出て来てくる可能性があるからです。
さらに今回、出て来た魔術書は、「炎の精霊の魔術書」だけでした。
この先、どんな展開になるのか、先回りして原作の『風のカフナ』を読んでみようと思ったのですが、ソフィ=シュイムという人物が書いたらしいこの原作にも、どうも謎がありそうです。そしてこの謎も、きっとこの先、明かされることでしょう。(と、私は予想しているのですが……)
耳長と呼ばれていた少年は、13歳となり、司書(カフナ)になるための試験を受けるため、村を後にします。
少年にとってはまさに、「旅立ちの日」であり、ここからが「冒険の始まり」なのです。
子供のころ、現実と本やテレビの世界の区別がつかずにいた幼いときの感情が、ふとよぎりました。
──新たな本は未知への扉──
耳長が感じていたこのわくわくする感情を、是非、この『図書館の大魔術師』で感じてください。
レビュアー
「関口宏の東京フレンドパーク2」「王様のブランチ」など、バラエティ、ドキュメンタリー、情報番組など多数の番組に放送作家として携わり、ライターとしても雑誌等に執筆。今までにインタビューした有名人は1500人以上。また、京都造形芸術大学非常勤講師として「脚本制作」「ストーリー制作」を担当。東京都千代田区、豊島区、埼玉県志木市主催「小説講座」「コラム講座」講師。雑誌『公募ガイド』「超初心者向け小説講座」(通信教育)講師。現在も、九段生涯学習館で小説サークルを主宰。
公式HPはこちら⇒www.jplanet.jp