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2018.05.24

レビュー

『空飛ぶタイヤ』池井戸作品・初の映画化──コミックでキャスト妄想読み!

吉川英治文学新人賞、そして直木賞候補にもなった池井戸潤氏の企業小説『空飛ぶタイヤ』。実際の事件を題材とした作品で、当時社会問題にもなりました。

そんな重たい話が、コミックだとどうなるのか半信半疑でしたが、人間ドラマがぎゅうぎゅうに詰まった作品となりました。

主人公は、トラック80台、従業員90名、年商7億の小さな運送会社・赤松運送の社長、赤松徳郎(42)。その赤松運送のトレーラーのタイヤが、ブレーキとともに突然外れ、母親を直撃。死亡事故を起こしてしまいます。
  
            

警察は、事故原因の調査をトレーラーの製造元である大手自動車メーカー、ホープ自動車に依頼。「赤松運送の整備不良が引き起こした事故」という調査結果を鵜呑みにします。

事故の影響で仕事が激減し、倒産の危機に直面した赤松社長は、以前にもタイヤが脱輪した事故が起きていたことを知り、車両の構造上の欠陥ではないかと疑いを持ちはじめます。

一方、ホープ自動車のカスタマー戦略課課長・沢田悠太(37)は、しつこく連絡してくる赤松社長を煙たがっていましたが、会社が3年前と同様の「リコール隠し」をしていることを突き止めます。さらに、ホープ自動車のメインバンクであるホープ銀行の井崎一亮(37)も、友人である週刊誌記者から「内部告発」があったことを知らされ、ホープ自動車のリコール隠しを疑い始めます。

最初は、赤松社長に対して冷酷だった沢田も、とうとう内部告発したのか。なんだ、いいヤツじゃんと思っていたら、内部告発をしたのは沢田ではなく、違う部署の人間で、おいおい、お前じゃないのか、沢田!と思わず、ツッコミを入れたくなりました。さらに上司から、好条件の異動と引き換えに、この件から手を引けと迫られる沢田。告発した人間が、不当な異動で飛ばされることを知った沢田は、迷います。  

  

          
「地位と引き換えに魂を差し出すのか? オレは。
  勝手に爆弾を投げておきながら、戦場から逃げ出すのか……?」

大企業のサラリーマンってこんななの? 弱っちいなぁ沢田、と思わず言いたくなりますが、でも、こういう人間くささが、このコミックの、池井戸作品の魅力なわけで。

そんなとき、赤松社長は事故原因の調査のため、ホープ自動車に提出した部品の返却を求める内容証明を提出します。そこで初めて赤松社長と対峙した沢田は、とんでもない条件を差し出してくる。それを受け、赤松社長は心が揺れて……。

うぉー、断然、面白くなってきたぞー。いいぞ、ここからだ!と思ったら、下巻につづくというニクい終わり方。しかも「闘う男たちの大どんでん返し!!」という予告が載っていて、すっかり焦らされてしまいました。

それにしても、ホープ自動車が事故調査をして、「問題はうちにはありませんでした」と責任転嫁するくだりで頭をよぎったのは、財務省事務次官のセクハラ問題に関する告発と、該当する女性は名乗り出なさいという大臣の発言でした。

政治の世界でも、文書改ざんや告発によって辞任に追い込まれた事務次官がいたり、昨年、発覚した神戸製鋼の組織ぐるみによるデータ改ざん問題、タカタのエアバック問題と、今でも『空飛ぶタイヤ』のような話が起こっているのだなと。

映画『空飛ぶタイヤ』は6月15日(金)から全国ロードショー公開されますが、10年ほど前の作品が、なぜこのタイミングでコミックとなり、映画化されたのかが、ちょっとだけわかったような気がしました。

そして、このタイミングだからこその楽しみ方として、映画のキャストを見ずに、誰が演じるのか想像しながらコミックを読むというのがあります。

漫画は、『おとむらいさん』『すくってごらん』の大谷紀子氏。




映画は長瀬智也さんが主役なので、長瀬さんは赤松社長だろうと思いつつも、コミックの赤松社長は、どちらかというとディーン・フジオカ顔で、じゃあ高橋一生さんはどの役をやるんだ? 小池栄子さんは誰の奥さん? と思っていたら、なるほど、そう来ましたか! という感じで、これも楽しいです。

映画を観る前に小説を読んでおくというのも手ですが、上下巻とかなりの分量なので、読む時間が……という方には、このコミックは打ってつけだと思います。登場人物も多いし、企業小説はハードルが高過ぎるという方は、このコミックで予備知識を持っておくと、さらに映画も楽しく観られるのではないでしょうか。


引用画像©池井戸潤・大谷紀子/講談社

レビュアー

黒田順子

「関口宏の東京フレンドパーク2」「王様のブランチ」など、バラエティ、ドキュメンタリー、情報番組など多数の番組に放送作家として携わり、ライターとしても雑誌等に執筆。今までにインタビューした有名人は1500人以上。また、京都造形芸術大学非常勤講師として「脚本制作」「ストーリー制作」を担当。東京都千代田区、豊島区、埼玉県志木市主催「小説講座」「コラム講座」講師。雑誌『公募ガイド』「超初心者向け小説講座」(通信教育)講師。現在も、九段生涯学習館で小説サークルを主宰。

公式HPはこちら⇒www.jplanet.jp

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