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2017.09.06

インタビュー

「冴えないじじい」がアニメ&実写映画化! 超話題作『いぬやしき』完結

本作の主人公はイケメンでも美少女でもなく、娘の友達に「おじいちゃん?」と間違えられてしまうような58歳の男、犬屋敷壱郎(いぬやしきいちろう)。ある日、彼は謎の飛来物体と遭遇して破壊され、機械人間として生まれ変わらされる。そして、己の生きる意味を求めて人々を救い始める──。
これまでにないヒーロー像と迫真の描写力で注目集める「イブニング」連載『いぬやしき』が、9月22日発売の第10巻で完結する。10月にはアニメ放送がスタートし、2018年には木梨憲武さん主演の実写映画も公開予定の本作について、著者の奥浩哉さんと担当編集者2人(塩田、田村)が語り合う。

ヘリやドローンを駆使して資料写真を撮影

塩田 『いぬやしき』の連載スタートは2014年。第1話の原稿をいただいたとき、奥さんが「このマンガが世の中にある程度受け入れてもらえたら、僕は新しいことができたと思う」とおっしゃっていたのを、よく覚えています。

奥 前作『GANTZ』を「週刊ヤングジャンプ」で連載していたときから、次の企画は「イブニング」で、僕の自由に描かせてもらえるという話をいただいていたんですよね。マンガの主人公って、たとえ設定はイケてなくても、顔はカッコよく描かないと売れないというセオリーがあるから、自由に描けるならそこを変えたいと思っていました。最初は童貞の不細工な男の子を主人公にしたヒーローものを考えていましたが、絵を描いてもしっくりこなかった。それでふとおじいちゃんを描いたのが、今回の作品のきっかけになりました。

塩田 僕らマンガ編集者は連載の場合、通常は毎回、まず作家さんとどんなストーリーにするか打ち合わせをして、次にネーム(いわゆる絵コンテ)をいただき、さまざまな修整を経て完成原稿をいただきます。でも本作はそれらを全部すっ飛ばして、いきなり原稿をいただいた。編集者も原稿で初めて内容を知るという、僕にとって初めてのケースでした。連載中、「この先どうなるんですか?」と奥さんに聞いても、「まあ、それは……」という感じで、はっきりおっしゃらない(笑)。恐らく、編集者が何も知らずに読んだ反応が知りたかったのかなと思うのですが。

奥 そうですね。第1話こそネームを見せましたが、「面白い」と言っていただけたので、以降はほとんど編集さんに相談することなく、本当に自由に描かせてもらった。すごくうれしかったです。

塩田 それにしても、第1話の山場のシーンには驚かされました。

田村 謎の飛来物体が犬屋敷を破壊してしまい、それを取り繕うため、地球を滅ぼすほど威力がある機械装置を使って、犬屋敷の身体を復元する──克明に描かれた機械装置には、目を見張りました。

奥 描くのに5日くらいかかりました(笑)。

田村 犬屋敷は飛行能力も得るわけですが、空を飛ぶシーンも真に迫っていますね。

奥 すごくこだわりました。

塩田 飛行シーンを描く際の資料写真を集めるため、ヘリをチャーターして空撮をしましたよね。でも、ヘリでは難しい低空の写真も欲しいということで……。

奥 低空からだんだんと飛び立っていくところを全部再現したくて。で、ラジコンヘリみたいなものはないかと編集さんに相談したら、ドローンを見つけてきてくれた。当時ドローンは、まだ映像業界でもあまり知られていなかった。

塩田 あと、犬屋敷とイケメンの敵役・獅子神皓(ししがみひろ)が、首都高の上を低空で飛びながら戦うシーン。さすがに首都高でドローンを飛ばすわけにはいかないので、2階建てのバスを借りて首都高を走り、その2階から資料写真を撮りました。

奥 いろいろとやっていただいて感謝しています。

塩田 そういえば奥さんは、連載中に「おじいちゃん(犬屋敷壱郎)のシワを描くのがすごく楽しい」とおっしゃっていましたね。

奥 ただの平面じゃなくて、骨の上に皮がのっている感じとか、シワがあると骨格と表面の一体感がうまく出せて、うれしかったんです(笑)。本当は女の子の裸とか描きたいのに、この作品ではおじいちゃんの裸ばかり描いていました。

田村 犬屋敷をもっとカッコよく描きたくなったりしませんでしたか?

奥 それはなかったですね。姿はあくまでも猫背のおじいちゃん。見た目とか決めのポーズのカッコよさではなく、その人の行為自体がカッコよければヒーローになれると僕は思うんです。『いぬやしき』では、そんな真のヒーローを描きたかった。

塩田 これは奥さんに一度聞いてみたかったことなんですが、マンガで「人間を描く」というのは、どういうことだと思いますか?

奥 「この人は実際に存在しているんじゃないか」と錯覚を起こさせるくらいのキャラクターを描くことでしょう。「この人なら、きっとこういう行動する」というのが思い浮かぶ絵……。それだけの絵を描くには、たくさんの工夫と人間観察が必要です。

田村 犬屋敷壱郎は機械人間ですが、表情や仕草、身体の揺れなどから、実際に存在する人間のように思えますね。

なぜ犬屋敷? いぬやしき?

田村 ところで、なぜ犬屋敷という名前にしたんですか。

奥 日本には「猫屋敷」という苗字の人はいるけど、「犬屋敷」さんはいないんじゃないかな。だからネットで検索したら、このタイトルが一番最初にヒットするだろうと狙ったところもあります(笑)。しかも平仮名で書くと、何のマンガかわからない。『GANTZ』の次に、いかにも「カッコいいマンガが始まる」って感じではなく、「一体何のマンガなんだろう?」というような、想像がつかないものにしたかったんです。あと、僕は犬好きなので(笑)。

塩田 実際は連載の開始早々からアニメ化や映画化のオファーがありましたが、奥さんは最初、「おじいちゃんが主人公だから、アニメ化の話はこないんじゃないかな」とおっしゃっていましたね。

奥 はい、今回はそこはあきらめてくださいと先に謝っていました(笑)。そうしたら意外にも、『GANTZ』より早いくらいの段階でアニメ化のお話をいただいて。

田村 10月から放映されるアニメの制作現場も、みなさんすごくこのマンガを読み込まれていて、独自の解釈をしながら力を合わせて作っていらっしゃるのが印象的でした。

奥 アニメも来年公開の実写映画も、それぞれ魅力的な作品になりそうなので、すごく期待しています。

塩田 連載を始めたとき、奥さんは「10巻で完結」とおっしゃっていましたが、その予告通り、いよいよ最終巻となる第10巻が9月22日に発売です。

奥 わりとすんなり描き進められた作品で、うまく10巻に収まりました。

塩田 「10巻読んで、映画1本を観終わったくらいの気持ちになってもらえたら」と奥さん自身がおっしゃる作品なので、これから読む方には、全巻買いの一気読みがおすすめです(笑)!

毎日のように映画を観る

塩田 奥さんは10代の頃から映画を観るのが日課なんですよね。

奥 今でもほぼ毎日、映画ばかり観ています。

田村 最近は何を観ましたか?

奥 一昨日は『エイリアン:コヴェナント』を。良かったですよ。

塩田 マンガを描くための参考にするわけではなく、本当にお好きなんですよね。「普通に楽しめばいいんです。つまんなかったら寝ちゃいますよ」と(笑)。

奥 単純にストレス解消のために観ていますからね。映画依存症みたいなものです。面白い映画を観ないと、あまり元気が出ない。

塩田 奥さんは以前、マンガで一番語りたいのは「物語」だとおっしゃっていましたよね。これだけ絵がうまいし、画面作りもすごくこだわられているのに、それはすべて物語を語るためにあるのだ、と。奥さんがうまいと思うマンガは、たとえばどんなストーリーなのでしょう?

奥 うーん、うまいというより好みですが、やっぱり僕はエンターテインメントが好きなので、主人公の目的みたいなものが1話目ではっきりしているものがいいですね。この主人公はこの世界ですごく活躍できそうだぞというような、飛び抜けている何かがあって、ワクワクする未来が見える感じのストーリーが好きです。

田村 今回の作品では、現代のネット社会もリアルに描かれていますね。

奥 いつも僕には、今自分が生きている世の中を反映させたものを描きたいという気持ちがあります。『GANTZ』のときもそうでしたが、現実にあるもの、起こっていることはどんどん取り入れます。

塩田 僕は少年マンガ誌にもいたので、奥さんってやっぱりすごく青年マンガ誌の作家さんだなと思うんです。奥さんにとって、青年誌というのはどんな存在なのでしょうか?

奥 青年誌は大人が読むものなので、大人になった自分が楽しみながら描けるところがあるように思います。子供たちに向けたものではなく、上の世代をターゲットにしている分、自由に描けるというか、それだけ表現の幅が広いと感じています。

田村 次回作も期待しています。ぜひよろしくお願いします!

奥 浩哉(おく・ひろや)

1967年福岡県生まれ。1988年に『変』でデビュー。2000〜2013年に「週刊ヤングジャンプ」でSFアクション『GANTZ』を連載。アニメ化、実写映画化などメディアミックスがなされた。2014年に「イブニング」で『いぬやしき』の連載を開始。

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