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2017.07.06

インタビュー

「楽しく生きてきたのに『タラレバ』読んで台無しです」読者の声に東村アキコは?

東京に暮らすアラサー独身女子の“リアル”を描いて大ヒット! 今年1〜3月に放送された、吉高由里子さん主演のドラマも評判になった『東京タラレバ娘』。その最終巻の刊行を機に、著者の東村アキコさんと担当編集者の助宗佑美が、連載裏話や大ヒットの要因を語り合った。

「楽しく生きていたのに、『タラレバ』を読んだせいで台無しです」との感想が届いて……

助宗 2014年の連載開始当初から、SNSでの阿鼻叫喚や、タラレバ娘たちの言動に対する賛否両論など話題に事欠かなかった『東京タラレバ娘』も、7月13日発売の第9巻でついに最終巻を迎えますね。

東村 うん、ついに終わるね。2013年に「東京オリンピック、2020年に開催」のニュースが日本中を駆け巡った瞬間から、仕事をバリバリしていて、それなりに身なりもかわいくしていて、きっと自分の裁量で人生をエンジョイしてるんだろうな〜と思っていた周りのアラサ―独身女子たちが、次々と「結婚したい……」と相談してきて、「え!?!? みんなそんなに結婚にこだわってたの!?!?」と驚きました。と同時にすごく意外で、すごく興味深かった。それで、この話を描こうと思ったんですよね。

助宗 当時、『海月姫』を絶賛連載中(2008年より「Kiss」にて連載)だったのに、『タラレバ』も連載スタートしていただき、編集部としてはとても嬉しかったです。

東村 いやー、あのタイミングで連載をはじめたことがよかったのかなと思っているので、むしろ「『海月姫』に集中してくださいよ!」じゃなくて「なんか面白そうだから両方やっちゃえば?」っていう、ある意味気さくな編集部と編集長の雰囲気にのっからせてもらって、よかったと思っています。

助宗 2020年まではあと7年という描写ではじまる本作ですが、その「7年」という数字が絶妙だったのかなと思いました。

東村 確かに7年後っていう未来って、このまま変えられないという想像もできるけど、同時に変えられたら、【結婚】【出産】【仕事】などあらゆることで結構違う人生に向かうことができる年数ですよね。だから、読者の皆さんが「自分の7年後って……!?」と、タラレバ娘たちと同じ目線になって作品にスッと入り込んでくれたのかなと感じました。

助宗 連載中は、ただ単にマンガの展開うんぬんだけでなく、「女性の幸せな生き方とは?」というところまでテーマが拡大されて、いろんな意見が飛び交っていましたが、そのことはどんな風にお感じになられていましたか?

東村 「楽しく読みました!」なんていう読者の方からの穏やかなる感想は、ひとっつも届きませんでしたよ(笑)!! 〈楽しく生きていたのに、『タラレバ』を読んだせいで台無しです……。私どうしたらいいですか?〉とか〈余計なことに気づかせやがって!〉とかそういった感想が多かったですね。道でたまたま私を見かけた読者さんから、急に人生相談されることも多々ありましたよ(笑)。

助宗 居酒屋で「先生! こっちのテーブルで話きいてくださいね!」とトイレ行った帰りに拉致されたこともありましたよね(笑)。

東村 あった(笑)! でも、なんかこの作品を描いたからには、私にはみんなの話をきく義務がある……という気持ちで各場面対応させていただき、居酒屋でも40分くらいはそのテーブルにお邪魔させていただきました。私はこの作品に「結婚はいいよ! 結婚が人生の幸せだよ!」というメッセージを込めたわけではなかったのですが、作中のタラレバ娘たちがとにかく結婚したがっている姿に、「結婚こそが幸せか?」と感じる読者の方もいたようですね。

ただ、いろんな意見が出たことや、私に直接訴えてきた方たちのあの勢いも、「この作品がいい意味でも悪い意味でも、気づかないふりをしていたことに目を向けるきっかけになっていて感情が揺さぶられている」ということだったのかもですね。

タラレバ娘に連なる作品をまたやるのもいいかもしれない

助宗 私としては、作品の伴走者としてはもちろんのこと、作品を最大限広げていくためのビジネスパートナーとして、漫画家の先生と密にコミュニケーションをとらせていただく大切さをこれまで以上に実感しました。東村さんはお仕事相手であり、人生のお姉さん的な存在であり、ママ(母親)としての先輩でもあります。私が担当になったばかりの頃、「困ったことがあったら仕事のことでも、プライベートのことでもいってみ?」という感じで東村さんから距離をぐっとつめてくださったので、非常にありがたかったです。東村さんにいただいた、お子さんのお下がりDVD、我が家でも大活躍してます(笑)。

東村 お役にたてているなら何よりです(笑)。

助宗 『東京タラレバ娘』は、ズバッと発言するのが難しくなってきたこの時代に、普段まわりの人が思ってはいるけれどあえて本人には言ってくれないこと、言いにくいことを、誤解を恐れず言い放ったのがヒットの要因だと思っているのですが、東村さんのそういうお姉さん的になってくださるところが、作品にいい形で反映されたんだろうなと感じています。ちなみに、次の作品の構想はおありですか?

東村 とりあえず直近では、『海月姫』を完結させたいと思っています。こちらの作品は私にとっては最長巻数であり(16巻まで刊行中)、思い入れのある作品なので、きちんとフィナーレまで描ききりたいと思っています。

助宗 『海月姫』は今、欧米でも人気です。オタクの女の子たちがオタクのまま活躍していく姿が「多様性(ダイバーシティ)の肯定」として評価されているようです。

東村 そのあとはメンバーを変えて、またタラレバ娘に連なる作品をやるのもいいかなと思ってます。

助宗 楽しみにしています!

マンガがいろんな形で読者になってくれる可能性のある方々に届いた

助宗 そういえば、『東京タラレバ娘』はいろんな企業さんと広告タイアップもさせていただきました。

東村 【30代】【タイプの違う3人の女性】、そして【タラレバ言っているよりも……】っていうコンセプトが広告に向いていたのかなーと。あとから気づきましたけど。

助宗 一番はじめに百貨店の高島屋さんのバレンタインフェアとコラボさせていただいた際に、東村さんは「タラレバ娘たちがチョコを買いに」という内容のマンガを描いてくださいましたが、すでにあるコマのデザイン的な流用の仕方など、作品の質や品を守るためにこちらが裁量を持つべき部分と、企業さんのコンセプトに寄り添うことを優先する部分をはっきりと分けて提示してくださいました。企業さんもコラボしやすかったと思いますし、私や営業セクションのメンバーもやりやすかったです。

東村 広告のお仕事をやらせていただいたり、ドラマ化していただいたり、マンガがいろんな形で読者さん、そして読者になってくれる可能性のある方々に届いたことも、大きな作品になったひとつの要因かなーと思っています。いやー、編集者の仕事っていっぱいあるんだなーとも思った!

助宗 これからもよろしくお願いします!!

東村アキコ(ひがしむら・あきこ)

宮崎県生まれ。1999年に「フルーツこうもり」でデビュー。2010年、『海月姫』で第34回講談社漫画賞を受賞。この作品は同年にテレビアニメ化、2014年には実写映画化された。『東京タラレバ娘』は「このマンガがすごい!2015」オンナ編第2位、「同2016」オンナ編第2位、『かくかくしかじか』が「マンガ大賞2015」大賞に選ばれている。

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