書店員アンケートで「面白かった」と回答した人が100%になった本作。主人公の少女が「実は誰でも魔法が使える」と気づき、魔法使いを目指すというファンタジーだ。イラストレーターとしても活躍し、『スター・ウォーズ』の公式アメコミイラストを手がける著者の画力も評判で、本作は第1~2巻の累計が40万部と勢いにのっている。第2巻の刊行を機に、著者と担当編集者(寺山)が、作品の構想時にまで遡って語り合った。
絵が生まれる過程って魔法みたいだよね
寺山 『とんがり帽子のアトリエ』第2巻の校了、お疲れさまでした。今回はミニ画集付きの特装版も同時発売なので、第1巻よりやることが多くて大変だったと思います。
白浜 いえいえ! デザインも可愛くしていただいて嬉しいです。
寺山 あとは8月23日(水)に発売されるのを待つばかりですね。
第1巻を発売したあと、読者の方々や書店さんから「絵がすごい!」という声が多く届いたので、そういった皆さんの期待に応えられるのではと思っています。ミニ画集には連載前の打ち合わせで、いちばん初めに私が見せていただいたイメージイラストなども入っていて……懐かしいですね。
白浜 そうですね。当初の設定の中には連載開始後とは異なるものもあるので、それも楽しんでもらえると嬉しいです。
寺山 主人公の少女ココが魔法使いに憧れていて、彼女が魔法使いを目指すことになるという物語の骨組みは、いまと同じですね。「『普通の人は魔法使いになることができない』と言われているが、本当は誰でもなることができる」という設定も、最初のころからありました。一緒に魔法を学ぶ級友として、元気印のテティア、物静かなリチェ、ココに反発する努力家のアガットがいるのも、現在とほぼ同じです。変わったところは、ココが魔法を学ぶ場所が、魔法学校からアトリエに変わったところと、先生であるキーフリーの設定くらいかもしれないですね。
白浜 キーフリーは変わりましたね。
寺山 連載では、どこか陰のある人物として描かれていますが……もともとどんな設定だったのかは、特装版でのお楽しみということで。
さて、初めて白浜さんとお会いした2年前に『とんがり帽子のアトリエ』の構想を聞かせていただいたのが、この連載のスタートでしたね。どのくらい前から本作の構想はあったのですか?
白浜 6〜7年前くらいでしょうか。イラストを描いている友人たちと話しているときに、「絵が生まれていく過程って魔法みたいだよね」という話になって、その流れで「魔法陣(魔術で用いられる紋様や文字で構成された図のこと)を仕事として描く人たちの物語を描けないか」と思い付いたのがきっかけです。そこから魔法陣の設定などを考え始めました。
寺山 ということは、前作の『エニデヴィ』(天使のエニエルと悪魔のデヴィエラが、世界を巻き込む喧嘩を繰り広げるコメディ作品。全3巻)を描く前から構想だけはあったんですね。
白浜 そうですね。もともと、ファンタジーも描いてみたかったんです。
寺山 ファンタジーでありながら、本作は「魔法使い」を「仕事」として捉えている点が、構想をお聞きしたときから興味深かったです。この点についても、かなり意識して描かれていますよね。
白浜 イラストや漫画のような、いわゆるクリエイティブな仕事って、「一部の才能ある人がやるもの」という世間のイメージが強いのが、以前から気になっていて。やりたいと思うなら、「そもそもできない」ではなく「どう挑むか」を考えてみてもいいんじゃないかと思うんです。
寺山 魔法も「できない」じゃなく、「どう挑むか」だと……。
白浜 そうですね。小中学生が何か夢を抱いたときに、そっと背中を押してあげられるような漫画を目指して描いています。
寺山 白浜さんご自身は、いつ頃から漫画家という仕事を意識していたのですか? 東京藝術大学に入学される前ですか?
白浜 入学してからですね。在学中に漫画家の人と知り合いになって、それまでは「漫画家ってなるのが大変そう」と思っていたのですが、近くに実際になっている人がいると「もしかしたらなれるかも」という気になってきて。
寺山 まさに、「そもそもなれない」から解放されたわけですね。
白浜 あの出会いがなかったら漫画家になるなんて、考えてなかったかもしれませんね。
描きたいものがどんどん増えていく
寺山 現在は漫画だけでなく、アメコミのカバーも描かれていますよね。たしか、最初はご自分でアメリカまで持ち込みに行かれたんですよね?
白浜 はい。ニューヨークで開催されている「コミコン」(アメリカ東海岸で最大のポップカルチャーイベント)のブースに、描いたイラストを持って行きました。それで先方から仕事をもらえるようになって、いまでは月に数冊程度のカバーイラストを描かせてもらってます。
寺山 その行動力はすごいなと思いますね。
白浜 日本の漫画も好きだったんですが、アメコミやバンド・デシネ(フランス語圏の漫画)も好きだったので、いつかはそこで仕事をしたいと思っていて。
寺山 これも「どう挑むか」を考えたうえでの行動だったわけですね。そう考えると、『とんがり帽子のアトリエ』で白浜さんが描かれていることって、ご自身の経験も活きているように思えます。
白浜 そうかもしれませんね。
寺山 今後の『とんがり帽子のアトリエ』についてですが、どのような展開になるのでしょうか?
白浜 一応、結末は考えてあります。全然違うものになるかもしれませんが……。
寺山 打ち合わせをするたびに、白浜さんの描きたいものが増えていってる感じですよね。
白浜 はい。たくさん描きたいです!
寺山 嬉しいお言葉をいただきました(笑)。当面は、『とんがり帽子』の世界を楽しめそうです。
読み手の応援が、コツコツと描く原動力に
寺山 ちなみに、せっかく「作家と担当編集者の対談」なのでお聞きしてみたいのですが、白浜さんにとって編集の「役割」ってなんだと思いますか?
白浜 そうですね……。自分の漫画を、ある程度客観的に見てくれることだと思います。描いていると、「これって面白いのかな」と、自分だとわからなくなる部分が出てくるんですが、それについて意見がもらえるのはありがたいです。作家と編集って、クリエイティブな仕事の最少ユニットだと思うんです。だから、判断も早いし、意見も集約しやすい。まさに二人三脚でとても助かってます。
寺山 すみません。完全に「言わせた」みたいになってしまいました。
白浜 そんなことないです(笑)!
『とんがり帽子のアトリエ』は、第1話を発表したときも、第1巻が発売になったときも、読者の皆さんがツイッターなどで拡散してくださったり、書店さんの店頭で大きく展開してくださったりと、読み手の方々に支えられたのが、とても大きかったです。これからも、ぜひ応援をお願いします。
寺山 ご自宅でコツコツとペンを走らせている白浜さんの原動力になっているはずです。
白浜 なってます!
寺山 単行本を待てない方は、連載中の月刊コミック誌「モーニング・ツー」で連載を追ってみてください。
白浜 8月22日(火)発売の「モーニング・ツー」では、表紙と巻頭カラーを描かせていただきました。ぜひご覧ください。
寺山 単行本第2巻の着せ替えカバーも付いているので、お見逃しなく!
東京藝術大学デザイン科を卒業後、フリーのイラストレーター、漫画家として活動。「マーベル・コミック」や、「スター・ウォーズ」などのアメリカンコミックスの表紙も手がけている。他の作品に『エニデヴィ』(全3巻)など。