累計500万部の傑作青春ラブストーリー『となりの怪物くん』の著者・ろびこさん。雑誌「デザート」で連載中の最新作『僕と君の大切な話』が、エンタミクス「NEXTブレイク漫画RANKING2016」で2位に輝くなど注目を集めている。
主人公は2人の高校生。東司朗に片想い中の相沢のぞみが、ある日学校の最寄り駅で勇気を出して告白すると、予想もしない返事が来て……。第1巻はほぼ全編、駅のベンチで2 人が会話し続けるだけという異色の少女漫画だ。著者と、担当兼デザート編集長の鈴木重毅が創作の裏話を明かす。
男女の価値観の違いをぶつけ合う
鈴木 2人の高校生がある駅のベンチで会話し続けるという個性的なスタイルの『僕と君の大切な話』ですが、「NEXTブレイク漫画RANKING」2 位のほかに、宝島社「このマンガがすごい!2017オンナ編」でも8位と高評価をいただいています。単行本はまだ1巻しか出ていないのに、ありがたいですね。
ろびこ 本当にありがたいです。こういうランキングに入れていただけると思っていなかったので、すごく嬉しいです。2巻を出すのが遅くなって、惜しいことしたなと(笑)。
鈴木 大丈夫、これからですよ! この対談を読んでくださっている方たちが、応援してくれるはずですから(よろしくお願いします)。しかし今さらですけど、ずっと駅で、ほぼ2人で会話を続けて、すぐ結論を出したがる男子とやたらと共感を求める女子……みたいな男女の価値観の違いをぶつけ合うという、よくこんな斬新な話を思いつきましたよね。
ろびこ 斬新なものを狙ってたわけではなくて、ワンシチュエーションものを描いたら面白いかなと前々から思っていて、仕上がったらこうなったという感じなんです。
鈴木 ずっとベンチという設定と、男女の価値観の違いというテーマと、どちらが先だったんですか?
ろびこ 最初はゲーセンが舞台の「思春期あるある」的なものを考えていたんです。もっと下ネタもあって,くだらない話だったんですけど。それを少女漫画向けにしよう、高校生でやるならこうしようと考えていくうちに、自然と今の形にシフトしていきました。むしろ、どうしてこの連載案をOKしてくれたんですか?
鈴木 まず、ろびこさんの最初のメモにあった「断罪裁判」というフレーズが面白かったんです。それをもとに「たとえば、男子はすぐに正論を振りかざし、女子は男子抜きで欠席裁判をするというイメージ」と話し合ううちに、これはいけそうだなと思って。そして何より、駅のベンチだけで進む話なんて見たことない。ろびこさんに次描いてもらうなら、何か新しいものが見たいと思っていたんですよね。
ろびこ ワンシチュエーションという設定をどう思われるか、こちらは心配で仕方なかったのに。
鈴木 単純に面白そうとしか思いませんでした、すみません(笑)。そのせいか、最初はかなり苦労させてしまいましたね。
ろびこ 連載を始める前に4話目までネーム作って貯めてたのに、いざ載るとなってから全部直しましたからね。でも、あの直しのおかげで、とことんコメディに振り切るのがいいんだと、お互いに思い合えたのがよかったと思います。忘れもしない、いつも打ち合わせに使うファミレスの一番奥の席でした(笑)。あそこで1話目の直しができたら、即2話目の直しも浮かんで。神がかってましたね、あの瞬間は。
鈴木 すごい充実感でした。そこに辿り着けたときは、しばらく笑い合ってましたもんね。とはいえ、それで3話目も4話目も直すはめになり、さらに舞台となる駅の絵も、2話分の原稿ができ上がってから描き直すということになり……。
ろびこ そうでしたね。最初に描いていたものより、イメージに近い駅が見つかってしまったので、そっちをモデルにして描きたくなって。
鈴木 納得いくものになるまでとことん諦めないのは、変わらず凄いところだなあと思います。毎回会話劇を細かいところまで突き詰めていくのも、本当に凄いですし。
ろびこ ありがとうございます。でも、会話を考えるのは楽しいんです。前作でキャラクターを褒めてもらうことが多くて嬉しかったんですけど、自分では特にキャラの会話を描くのが楽しかったので、その会話の楽しさだけで描いてみたくて。人と話していると、最後に何かしらの結論で一致できるときってありますよね。男の人、女の人、それぞれアホなところや譲れないところがあるけれど、話し合っていくうちに同じところに辿り着けた、「お互い納得いく答え出たね」というときの爽快感を描けたらなと思って描いてるんです。
そして互いに理解し合う瞬間が
鈴木 人と人が違いを乗り越えてお互いに理解し合う瞬間を描くという姿勢は、前作から一貫してる感じがしますね。そして、その瞬間をとても大事に大事に扱おうとしているのが、作家としての大きな魅力だと思っています。
ろびこ そう言ってもらえるのは嬉しいですけど、いつも背中を押してくれたり、長所をより出そうと言ってくれたり、ネタを提案してくれたりする担当さんがいるおかげですよ。
鈴木 こちらを持ち上げなくてもいいのに(笑)。ありがとうございます。逆に前作から変化したことはありますか?
ろびこ 少女漫画だってことは、より意識しなきゃなと思ってます。「キュン」がないと面白くならないし、やっぱり恋心あってのプチゲンカだろうと思うので。ただ、今回の主人公の相沢さんは最初から恋してくれているので、恋心を描くのが凄く楽しいです。
鈴木 ちょっとお待たせしてしまいましたが、いよいよ3月13日に第2巻が発売になります。相沢さんの恋を含め、この先はどうなっていくんでしょうか。
ろびこ 第2巻は学校編になっていて、キャラクターも増えて賑やかになります。これからは、そのキャラたちも含めたさまざまな男女観が出せていけるといいなと思っています。
鈴木 2巻はほぼ学校の中庭のベンチでしたが、第3巻もどこかのベンチが舞台になるんでしょうか?
ろびこ それはまだ言えませんけど(笑)、会話の楽しさは今後も出していきたいです。
鈴木 主人公2人の恋の進展は?
ろびこ それもノーコメントでお願いします(笑)。
鈴木 この連載がどこに辿り着くのか。秀逸な会話のやりとりを楽しみながら見守ってほしいです。
男はなぜダメなデートプランを考えてしまうのか
鈴木 ところで話は全然変わりますが、おかげさまで今年で「デザート」は創刊20周年を迎えるんです。
ろびこ そうですよね。どうもおめでとうございます。
鈴木 ありがとうございます。ちなみに、ろびこさんはデビューして12年。僕が担当させてもらってから10年目になります。改めて、これまでいろいろとありがとうございます。今でも毎回打ち合わせが楽しいし、ネームや原稿ができ上がってくる瞬間はワクワクしています。予想外なセリフや展開が出てくることが本当に多くて。
ろびこ こちらも毎回お世話になってます。打ち合わせに関しては、野球でいうとピッチャーとキャッチャーというか、いつも「こんなに安心して投げていいんだ」と思わせてくれますよね。
鈴木 そうなら嬉しいですけど。でもいつも質問しまくってるだけだし、はずれでもいいから思いついたことはどんどん言っていこうとしてるだけで、実際ほとんど採用されたことないですよ(笑)。
ろびこ いや、採用とかじゃなくて、たくさん聞いたり言ってくれたりするのがいいんですよ。そのおかげで自分の考えがまとまっていくし、自分が言ったことの反応も確かめられるので。本当にいつも助かってます。あと、ネタのまとめを時々もらえるのもありがたいです。
鈴木 男女の価値観の違いというテーマなので、うちの部員やスタッフさんはじめ、いろんな人にことあるごとに「異性にイラっとした瞬間」を聞くクセがついちゃいましたね。みんな何かしら持ってるので(笑)。ろびこさんと打ち合わせをするときも、『僕と君の大切な話』は特に質問タイムが増えた気がします。お互いに質問魔だというのもありますけど、男がなぜダメなデートプランを考えてしまうのかとか、ずいぶん根掘り葉掘り聞かれましたよね。
ろびこ それ以外のネタでも、ちゃんとした大人の男の人でも、アホなとこや単純なとこがあったりするのが面白くて(笑)。おかげでいろいろイメージ膨らませたり、思い出したりすることができてます。
鈴木 どのくらいお役に立ててるかは分かりませんが、これからもさらけ出していこうと思います。改めて今年は創刊20周年ということで、何かと描いていただくものも多くなりますが、ご協力お願いします。
ろびこ 早速いろいろムチャ振りされてますが、また新しい経験もできそうなので頑張ります。
鈴木 よろしくお願いします。皆様、3月13日に発売になる『僕と君の大切な話』第2巻、ぜひ読んでくださいね。
ろびこ どうぞよろしくお願いします。
鹿児島県生まれ。2005年、「ザ・デザート」5月号に掲載された『デメキンイック。』でデビュー。主な作品にテレビアニメ化もされた『となりの怪物くん』など。