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2016.11.12

レビュー

喪女子高生、年下王子に好きと言われて──恋する覚悟がほしい人、必見!

【恋愛隠居組必見】男前喪女子高生が恋を学ぶステップが超勉強になる『初恋はじめました。』

「恋を“する”ってなんだよ!! 恋って動詞なの!? しようとしてできるモノなの!? “好き”すらわかんないのになにからはじめればいいのかわかんないんですけど!!」

『初恋はじめました。』は、恋愛初心者の地味ヒロイン・姫子が年下のイケメン・春樹から告白されて―という王道展開から始まる。

シンデレラストーリー開始かと思いきや、姫子は即拒否&逃亡をはかる。というのも、姫子は恋愛にもオシャレにも興味がない解脱系女子高生。

「リア充って“リアルが充実してる”の略でしょ?……わたしはひとりの時間が好きなのに“非リア”だの“ぼっちかわいそう”だのいわれなきゃなんないの!?……恋なんかどーでもいいんでほっといてもらえませんかね!!」

と毒づきつつ、学生の本分をしっかりこなしてシングルライフを満喫する。まるで20代後半の結婚ラッシュ攻勢を乗り越えた歴戦の三十路のようなのだ。彼女にとって、目立たず穏やかな日々こそ至高。オリンピックを嘱望された走り高飛び選手で人気者の春樹はそれを脅かす存在でしかない。浮かれるどころか、逆に自分の都合を考えずにつきまとう春樹をピシャリと諌める。

しかし“学園のアイドル・ハルキ”ではなく、“真山春樹”というひとりの人間を知るうち、姫子の心にも変化が現れてくる。『初恋はじめました。』は、ジグソーパズルのようなマンガだ。恋をしたことがない姫子は「好き」という気持ちがわからない。どんな感情を抱いた時に相手を好きだと判断できるのかわからない。春樹と一緒にいて生まれた感情にいちいち戸惑い、「これは恋?」と自分に問いかけながらかたちを確かめていく。

つかまれた腕が熱いのはなんでかな?

本に集中できないのはなんでかな?

同じ壁ドンでも全然違う。

作中、姫子は何度となく“自分”という言葉を口にする。ひとりの時間を楽しんできた姫子は、常に自分が今何をしたいか、何が大切かを考えて行動してきた。それが春樹のことになるとできない。悩みすぎた挙句、恋のドキドキを知るためにつり橋を渡ったりすれば良いのかと考えることも。何をするにも手を抜けない真面目さ、納得するまで突き詰めないと進めない不器用さはとてもチャーミングだ。

物語とともにパズルのピースは少しずつ埋まっていくが、竹を割ったような性格の姫子らしくないところも顔を出す。元NHKアナウンサーで作家の下重暁子は、自身が若い頃体験した情熱的な恋を振り返りつつこんなことを書いている。<恋には進歩もないし、分別もない。ただ、『恋する覚悟』が必要なだけである>。 最後のピースは覚悟かな?

1巻で「恋は無意味じゃないとオレが教えます」と宣言した春樹。最新4巻ではふたりの距離はさらに縮まっていく。ただの爽やかイケメン王子じゃない春樹の男っぽい顔もたまりません。楽しいばかりではないし、筋が通ることばかりでもない恋愛に、姫子が覚悟を持って踏み出せるのか。パズルの完成はもう少し先っぽいですが、恋のしかたを忘れちゃった人とか恋する覚悟が欲しい人はぜひご一読を。

レビュアー

松澤夏織

ライター。漫画やアニメのインタビュー・構成を中心に活動。片道25km圏内ならロードバイクで移動する体力自慢。漫画はなんでも美味しくいただける雑食系。

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