【食べるってエロい】舌とココロで味わう、同居ラブバトル『黒豹と16歳』
「ねえ たいがちゃん また ぼくに餌づけして?
ぼくは ただ もっともっとたいがちゃんで遊んで喰べたいだけや ———…そうだ ぼく きみのペットになったげる」
『黒豹と16歳』の主人公・高千穂たいがは恋愛対象にならないと言われるほど性格がキツイ16歳。転校を機にかわいらしい女の子になると決意するも、ラムネをあげた行き倒れ男に突然キスをされてブチ切れるなど前途多難。翌日、怒り冷めやらぬまま登校すると、そこには学園のアイドルとしてもてはやされているキス男・杏璃(あんり)がいた。杏璃は「家がない」とたいがのところに転がりこんでいて……というお話。
作者の鳥海ペドロが「食べ物を描きたい」と思い立って始まったというこの漫画。しかし、どうしてこうなったというくらいエロい。まずはこちら。ラムネの瓶を口に突っ込まれ無理やり飲まされてキス、からの口移し。
力の抜けたたいがの腕が杏璃の肩にするりと絡み、溢れたラムネが唇を伝う。触れあった肌の熱さと冷たいラムネが溶け合い混じり合う様は官能的ですらある。
壁ドン・顎クイ・腰グイ(腰をグイッと引き寄せる。今考えました)を連発する俺様イケメンは、前作『百鬼恋乱』同様、作者の得意とするところ。パーソナルスペースをガンガン侵してたいがを振り回しつつ、自分の手の内は決して晒さない杏璃は、まさに黒豹のようにしなやかでミステリアスな色っぽさがある。しかし艶めかしいのはそれだけではない。ポイントは《食エロ》だ。
杏璃はことあるごとに飼い主のたいがにご褒美をねだる。
各話タイトルにはストーリー上重要な役割を果たす食べ物の名前が入っている。餌づけチューの第1話は「甘い、ラムネ味の夜。」。おねだり「あーん」の第2話は「ほどける、とろける、チョコレート。」。
大の羊羹好きで知られる夏目漱石は小説『草枕』の中で羊羹をこう表現した。「あの肌合が滑らかに、緻密に、しかも半透明に光線を受ける具合は、どう見ても一個の美術品だ。のみならず青磁の皿に盛られた青い煉羊羹は、青磁のなかから今生れたようにつやつやして、思わず手を出して撫でて見たくなる」
なんかエロい。羊羹をどれだけ性的な目で見ているのかと思う。大丈夫か漱石。しかし、そもそも食べるということは目と舌とココロで味わうもの。つまりめちゃくちゃ官能的な行為なのだ。ラムネもチョコも身近で簡単に味が想像出来るところが読者の想像をかきたて、五感を刺激する絵が妄想を加速させる。体温でトロリと溶けたチョコはとびきり甘いだろうなぁ。
しかしイケメンに迫られて甘い恋愛モードに突入するかと思いきや、そうはならないところが『黒豹と16歳』のもうひとつの魅力。杏璃の過剰なボディタッチにも決してなびかず、牙を剥いて自分を見失わないたいがの強さ。最初の餌づけキス後にビンタを3発くらわしたのは痛快のひと言だ。
杏璃の友人で男気のある硬派な黒鉄(くろがね)に惹かれ、女の子モードになっても彼女らしさは失われない。好きな人と歩いていてナンパされても、“黒鉄を守る”とガンを飛ばして撃退するとかカッコよすぎでは……!?(ちょっとズレてるけど)
最新3巻では黒鉄のクールな仮面が剥がれてデレが爆発。フェロモン男子・杏璃とは違った力強い色気が見どころだ。硬派な人が欲情する顔って美味しくないですか?(反語) 被食欲と捕食欲が刺激されることうけあい。食べられちゃいたい気持ちもあるけど、食べられるだけじゃ女子だってお腹が空きますから。
レビュアー
ライター。漫画やアニメのインタビュー・構成を中心に活動。片道25km圏内ならロードバイクで移動する体力自慢。漫画はなんでも美味しくいただける雑食系。