見た目はホラー、中身はキュート! イタンかわいいJK『能面女子の花子さん』待望の2巻が発売! 前巻発売時からSNSや全国の書店の話題をかっさらった花子さんですが、2017年もおっとりマイペースにお届けします。
『能面女子の花子さん』誕生秘話!? 織田涼さんインタビュー「人の顔が能面に見えるようになりました」
漫画『能面女子の花子さん』の2巻が発売された。昨年4月に1巻が発売されるや即重版。「このマンガがすごい!2017」(宝島社)でオンナ編19位にランクインするなど、今注目の学園シュールコメディだ。作者である漫画家の織田涼先生に話をきいた。
「人の顔が能面に見えるようになりました」
──緻密な絵で描かれる能面がリアルすぎて正直怖かったです。なぜ能面を題材にしようと思ったのでしょうか?
織田涼先生(以下 織田):書店さんで「あ、織田涼の漫画だ」と思ってもらえるようなインパクトが欲しくって。ちょうどその時日本の伝統文化をテーマにしようかなと漠然と考えていて、カルチャーセンターに行ったんです。実物を見た瞬間衝撃を受けて「これを漫画にしたら絶対面白い!」と確信しました。
──執筆にあたり取材などでかなり勉強されたそうですが、その流れからなぜ能面を彫ろうと思われたのでしょう? 1巻の著者近影で彫りかけの面(おもて)を見て「え?」となった人も多かったのではないかと思うんです。
織田:やるなら中途半端はあかんなと思って(笑)。実は私はデビュー前はずっと洋風ファンタジーのストーリー物を描いていたのですが、うまくいかなくて漫画を描かなかった時期があるんです。最後のチャンスと思い、私の絵柄と間に一番映える設定、テーマはなんだろうと一から考え直して生まれたのが『能面女子の花子さん』です。「堅い話が始まると思って読んだのに上っ面の話で終わってしまって面白くない」と言われることが多かったので、絵柄の堅さとストーリーの展開がマッチしてないのでは、とかすごく真剣に考えたんですよ。
──就職活動の自己分析みたいですね。
織田:まさにそれです! 「自分の好きな物を描くのではなく、合った物を描くのが商業漫画」と頭を切り替えたのもよかったのだと思います。今までの私は物事を深く追究していくことが苦手でしたが、デッサンみたいに見た通りに描くことが好きだったので、コメディだけど能面をテーマにするのなら突き詰めて、その分野に精通するレベルの人間になって漫画を描こうと思いました。まぁ、それでも実際に彫ろうとまで思う人はなかなかいないみたいで、能面を彫るお教室の先生や友人知人、家族にはかなり引かれました。半笑いで「と、とりあえずがんばりー」みたいなことを言われたりして。描くだけでなく彫ることも始めてずっと面と触れ合っているせいか、最近はかわいらしい顔立ちの方が小面(こおもて)に見えるようになりました。でも小面はもともと美人の役の時にかけるものなので方向性としては間違ってないなと思っています(笑)。
「花子! アンタはまだまだや!」
──能面をかけて学校に行く花子のメンタルの強さは尋常じゃないと思うのですが、織田先生から見て花子はどういう子ですか?
織田:ダメな子ですね! 私は「伝統文化は守らなきゃいけない」という凝り固まった考えの人間なので面を気軽に扱ったりしているのを見ると母親目線で「コラー!」と怒りたくなります。花子の担任の北山先生は私の分身みたいなものです。そんな花子がどう成長していくかを描きたいと思うこともあるのですが、そういう展開はコメディ漫画には必要ないと思って抑えています。最近は親心が出てきましたが、今でも「花子! アンタはまだまだ未熟者や!」と思うことがありますし、担当さんに「花子のどこがいいんですか!?」と電話で2〜3時間問い続けたりしています。けれど今の伝統文化は現代社会から隔離されすぎているとも感じるんです。もっとフランクに、親から子、子から孫へと肩肘張らずに「ずっとそうしてきたから」と言う花子のように受け継いでいくのが伝統のあり方としては自然なのかもしれないと最近では思っています。
──そんな深い考えが……! 能面を彫ること然り、伝統への考え方然り、織田先生の向き合い方が真面目すぎて失礼ながら正直驚きました。
担当編集:織田先生の真面目さは編集部では有名です(笑)。「自分が納得のいっていないものは見たくない」と言ってすぐ原稿を捨てようとしたりするのでその度に「捨てないでくださいー!!」って止めるのが大変です(笑)。
織田:連載は締め切りに追われて描くので100%納得がいくことのほうが珍しいんです。あそこもここも直したいけど、出さなきゃ担当さんに迷惑をかけてしまうので泣く泣く原稿をお渡ししています。でも手元に置いておくのは苦痛なので押し入れの奥にしまいこんでいます(笑)。
──花子だけでなくご自身に求めるレベルも高いのですね! 能面を描く時にこうしようと決めていることはありますか?
織田:能面は形が変わるものではないので、それ自体の表情は変えないようにしています。周りの人の反応や花子の仕草で読者の方に彼女の気持ちが伝わればいいなと思っています。あと集中線や掛け網のパターンといった漫画的な表現で感情を表現できないだろうかというのも自分の中での実験であり、挑戦ですね。
──とことんストイックですね。
織田:でもやってるほうは楽しいと思っているんですよ! たとえば花子がかけている小面は角度によってまったく表情が変わるんですよ。表情の微妙な違いがたまらないです。
──コミックス1巻の巻末で「本当に能面好きなんですか?」と半笑いで聞かれて「本当に好きですけど? 何か?」と半ギレしたと描かれていましたが、本当にガチですね。
織田:はい(笑)。ただ本気過ぎて能面トークができるお友達がまったくいないのが悩みです。担当さんには一般の人と同じ感覚を持っていてほしいので能面の勉強をしないでくださいとお願いしていますし、能面のお教室は年配の方が多いので……。『能面女子の花子さん』は、能や能面を知らない方にも楽しんでいただけるのが一番の願いですし、しんどいなと思った時などに読んでクスッと笑って「ま、いっか。明日もがんばろっかな」と思ってもらえたらそれだけで私は救われます。でも、少しでも、能面に興味を持っていただけたらいいな……と、ほんのちょっとだけ心の片隅では思っているんです。もしこの漫画を読んで興味を持ってくださった方がいらっしゃったらぜひお友達になってほしいです(笑)。
「漫画が売れたら中村光江先生が打った面を買うのが夢です。本当に美しくてゾッコンです!」
『能面女子の花子さん』のコミックス1〜2巻は全国書店、ネット書店、電子書籍サイトで好評発売中!
(松澤夏織)
兵庫県在住。2015年第11回「スーパーキャラクターコミック大賞」優秀賞&「Yahoo!ブックストア賞」をW受賞しデビュー。好きな面は小面。