大ヒットした『
亜人』の桜井画門最新作となる本作。それだけでもじゅうぶん話題作といえますが、中身もちゃんと読み応えのある、看板に偽りなしのSF作品に仕上がっています。紙では1冊、電子では上下2冊でリリースされた本作の魅力を、ネタバレ回避しつつ挙げるとするなら、大きく3つあると思います。
詳細な世界観やキャラクターよりも前に、私たち読者が目にするのは、タイトルと絵です。『THE POOL』という名前は漠然としていて、現時点では何を指すのかわかりません。では絵のほうはどうでしょうか。表紙をめくってから数ページ後、こんなシーンが登場します。
人が得体のしれない何かに捕まり、奥へと引きずり込まれていく様子が描かれています。触手あるいは爪のようなものが、頭や体を押さえつけるその一瞬を切り取ったシーン。集中線やスピード線など、躍動感や瞬間的な動きを表現する手法はいくつかあります。しかしこのコマは、まるで静止画のように止まって見える。謎の生物が人を捕えた、まさにその瞬間を描くと同時に、捕えられた人物の心境をも映すような絶望感溢れる描写に息をのむ。追い打ちをかけるのが、奥へと消えていく様をただ見つめることしかできない、残された人物の表情を描く構成。たった2ページで、謎と恐怖と緊張感を醸成する圧倒的な画力。興奮MAXで始まるオープニングに名作の予感です。
情報の出し方がうまい! ミステリアスに進む展開力!
物語の発端は、25年前、地球の軌道上に突如出現したワームホール。しかし、描かれている舞台がどこなのかは、最初は明かされません。地球なのか、地球ではないのか。少し読み進めたところで、武器を持った軍隊のような、あるいは傭兵のような少人数のチームが航空機より地上に降下するのですが、そこで出くわしたのはこんな生物。
このタイミングで、どうやら地球ではなさそうということがわかります(地球外生命体がワームホールを通じて地球に棲み着いた可能性も、まだ否定はできません)。
また、この謎の部隊がどういう組織なのかも、すぐには明かされません。ざっと把握できるのはだいたいこんな感じ。
■数名のチーム編成
■武装している
■航空機に搭乗しており、基地へと帰投する途中
■部隊のリーダーが、地上からの光のようなものに気づいて行動(降下)した
また、光の発信源と思われる場所が放棄された採掘場であること、そしてそこには「職員」がいるかもしれないことも明かされます。そして部隊が現場に到着した際、リーダーが「職員」と思われる相手に発した言葉がこちら。
「職員」「警備部」というワードに加え、「法務部」まで登場。このことから、この部隊はどうやら企業もしくは公的機関に所属していることがうかがえます。しかも法務部があるということはある程度しっかりした組織に違いありません。
断片的な情報が散りばめられており、本作を読み進めていくなかでこうした情報の点と点が線となり、全体の輪郭から徐々に細部へと理解が進みます。このような構成が緊張感を生み、SFの世界へグッと引き込まれていくのです。
画力があってストーリーの進め方にも引きこまれる本作、トドメの魅力は、その構成力です。漫画においてキャラクターの存在は超重要。その良し悪しは作品の出来を大きく左右します。そしてこれも重要なのですが、読み切りや短編などコンパクトな作品の場合は、いかに早くキャラクターの個性を打ち出すかがポイントになってきます。だらだらとキャラ紹介をしていたら話も進みませんし、感情移入もできないままフィナーレを迎えてしまいますから。
本作では、話の中心となる謎の部隊メンバーたちが最初に登場する2ページで、それぞれがどんなキャラクターなのかを端的に描写。これにより各人物の理解もスムーズで、その後の会話や行動も自然に受け入れることができます。
茶化す人、反抗する人、低レベルな会話を一刀両断する人、我関せず&クール、そしてその座り位置から彼らの上に立つ存在であることがうかがえる人。個性や部隊内での関係性も見えてくる、密度の濃いページです。もちろん、この後の展開で各キャラクターたちはより深く描かれ、さらにその魅力を感じることができます。物語の入り口で、最短距離にて人物紹介をする、その構成力に痺れました。
提示する情報を極力抑えつつ、印象的な表情とひと言で恐怖をかき立てるシーンにも注目。とある採掘場へと降り立った部隊メンバーたちと、そこにいた人物(職員)たちとのやり取りにて、その描写は登場します。
「ヤツ」とは一体なんなのか。すでに用済みな採掘場で、職員たちは何をしていたのか。そして小石(おいし)ユギ率いる部隊は、無事に基地へと帰還できるのか。
徐々に明らかになっていく謎と、迫りくる恐怖がもたらす緊迫感。全300ページ強という決して長くはない物語ながらも、中身の濃さによって得られる満足感。桜井画門が放つ、圧倒的な“漫画力”と共に描かれるSFアクション超大作に、読後の興奮が止まりません……!
レビュアー
ほしのん
中央線沿線を愛する漫画・音楽・テレビ好きライター。主にロック系のライブレポートも執筆中。
X(旧twitter):@hoshino2009