愛する家族が巻き込まれた怪死事件の真相を探る、二人の少年




人の「感情」と「思考」、起こそうとしている未来の「行動」が、ランダムに文字化されて見える。映像越しにもその能力は発揮される。
ただし、人によってはまったく見えないという。
そんな誠の兄・悟の葬式から、物語はスタートする。
大学院で分子細胞学の研究をしていた悟は、1ヵ月間の短期留学に出たはずが、わずか1週間で帰国。別人のように暴力的になり、実家でひとしきり暴れたのちに家を飛び出す。その直後、踏切で電車に轢(ひ)かれて死亡。寝ころぶ形で線路の上に頭を置いており、遺体の頭部はグシャグシャに砕かれていたそうだ。
その同日同時刻。全く同じ死に方で、一人の女性が死んでいた。
悟の所属する研究室の、松本教授。二人はともにアメリカに発ち、おそらく同時に帰国。松本も悟と同様、帰国時には精神に変調をきたしていたという。
兄の葬式に参列していた誠は、その場に現れた松本教授の息子・松本星一から、にわかには信じがたい妄想のような話を聞くことになる。
「二人は超極秘の生物実験プロジェクトに関わり、何らかの理由で強制的に死ぬように仕向けられたのではないか」
「死の前の錯乱や『頭部を破壊する』死に方は、この未知の生物による生体影響を受けていたためではないか」
星一の母であった松本教授が書き残した、殴り書きのメモ。
同じく松本教授が帰国当日にスマホに連絡先登録した外国人の研究者二人も、揃って頭部を破壊する形で謎の自殺を遂げていたこと。
さらに悟の遺品であるリュックから見つかった、人面を模したように見える謎の微生物。
星一の語る妄想のような説を裏付けるような事実が、次々と発覚していく。
はじめは星一の話を「妄想が過ぎる」と一笑に付す誠だったが、さすがに無視できなくなり、今一度、星一と会うことにする。
誠がスマホで星一に連絡を入れたとき、星一は刑事を名乗る二人組の訪問を受けていた。
テレビ電話で、こっそりその二人の映像を誠に送る星一。
映像から誠が読み取った二人の心は「侵入」「襲う」「奪う」――。
誠のおかげでいち早く危機を察知し、ギリギリで逃げおおせた星一は、誠と合流。
家族の非業の死の謎を解くための、二人の高校生の戦いが始まった。
世界の足元が揺らぐ、良質なSFサスペンス



一読した後に、胸の下の方に何かゾワゾワしたものが残る感覚。
自分の立っている世界の足元が、グラグラと揺らぐイメージ。
星一を襲った「刑事を名乗る二人」は、逃げた星一を追うために3階から飛び降りる。さらには街中でなんのためらいもなく、拳銃をぶっ放す。とにかく「ヤバい連中」であることは、それらの行動からも伝わってくる。
さらに、誠と星一が再会したのとほぼ時を同じくして、今度は誠(と悟)の両親が、何者かに襲われて惨殺されてしまう。そのことを知った誠は、自身の共感覚がみせた映像や、その場で刑事たち(本物)がしていた会話から「この事件の裏には警察すら操るような、とてつもない力を持つ組織が関与している」ことを確信する。
この「何も頼れない感覚」、そして「昨日までの常識が通用しなくなる世界」。
これを味わえるサスペンス漫画に、久しぶりに出会えた気がする。
改めて確認すると、タイトルの「地球のこども」も極めて意味深だ。
松本教授が残した殴り書きのメモから、存在するか否かも不明な謎の巨大生命体は「SAI」、謎の組織の名前は「SAI集団」と名付けられた。
1巻のラストには、その「SAI集団」か、それに関わる研究機関と思われる現場で、完全生体防備体制の研究員たちが謎の生命体(と思われる)を扱っているシーンも登場。

自身の足元が揺らがされるレベルのサスペンスは、「面白い」とか「ドキドキする」というより「続きを読まないと我慢できない」という感覚に陥ってしまうから、困ったものだ。