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2025.12.04

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東京都の『花子狩り』──社会の異物と見なされ排除される霊、「花子」は2度死ぬ

霊はとても不思議な存在です。古くから身近なものとして語られつつ、実在するかどうかは不確定。霊感がある人を除いては、その姿を目にした人もいない。オカルト、あるいはファンタジーなものとして扱われがちですが、一方で祟(たた)りを恐れたり、いわゆる事故物件が忌避(きひ)されたりと、いないものとして100%無視できるものでもない。

本作では、そんな霊の存在が科学的に証明され、世間に秘匿されてはいるものの技術革新によって「実体化」にも成功した社会における、霊にまつわる様々な問題を描いています。

物語の拠点となるのは、東京都花子さん特別支援課、通称「花子課」。トイレの花子さんからのインスピレーションで、霊についてよりソフトな印象を与えるためのネーミング。ちなみに旧名称は東京都地縛霊除霊鎮魂課という、なんとも物々しい名前です。

花子課の具体的な仕事とは?

本作における主人公となるのが、花子課に配属されたばかりの新人、光永寺送真(こうえいじそうま)です。上司の青山晴夫(あおやまはるお)、そして先輩の七原秋帆(ななはらあきほ)と共に、霊によるトラブル、いわゆる霊障が確認された現場へ急行し、特殊な装置を使用して霊を実体化させたうえで、保護・捕獲する。これが彼らのお仕事です。
たとえば工事現場などで断続的に発生した事故や不審死も、霊の仕業であるケースがあります。これが「霊障」と認定されると工事は中断され、東京都に除霊申請しないと工事再開許可が下りません。そこで花子課が登場し、霊を実体化させて捕獲するという除霊作業を行うわけです。

霊に対しての対応がある程度システム化されており、オカルト・ファンタジー要素と役所仕事という、一見相反するものが交差する点も、本作の面白さのひとつです。

お役所仕事も命がけ! 怨霊化のリスクも……!

マニュアル化されたオペレーションとはいっても、相手は霊。不測の事態も起こりえます。
このように危うく取り憑かれてしまうリスクも。さらにはこんなケースもあります。
駆除対象。つまり、保護・捕獲ではなくその場で駆除を行う必要があるほど危険な存在ということになります。1巻の時点では、まだ怨霊化に伴って霊がどういった変貌を遂げるのかは明かされていませんが、先輩・七原が「我々の身を守るためにも その場で駆除できる権限が与えられています」と説明していることから、怨霊化は相当警戒すべき現象とみるべきでしょう。

ちなみにこのケースでは、霊が「憎い」「殺す」というワードを放ったことから怨霊化の恐れあり、と判断し駆除を実施。これもマニュアルに則った対応となります。

「死んだ人を幸せにしたい」と願う光永寺の葛藤

本作は、単なるオカルト系除霊漫画ではありません。実はこの花子課に所属する人達の多くは、もともと「霊が見える人」。そのため、一般人よりも霊を身近に感じています。主人公である光永寺も、幼少期から霊が見えていました。霊となって苦しんでいる彼らを、つまり死んだ人を幸せにしたい――それが光永寺の願い。

でも現実はそう簡単にはいきません。保護・捕獲した霊がその後どうなるのか。七原は光永寺を、花子さん(霊)を慰霊する霊園施設へと連れていきます。実はこの施設には一般人が入れない裏口ルートがあり、その奥で行われていたのは……。
実体化から49日が経過した花子さんに対して、「成仏作業」という名の処分が行われていたのです。

事故物件や曰く付きの場所など、霊のウワサによって資産価値が下がったり、誰かに取り憑いたりと、今を生きる人間にとって霊は邪魔な存在。税金その他の問題からも、保護した花子さんをいつまでも管理するわけにいきません。そのことを突き付けられてなお、光永寺はこんな疑問を抱かずにはいられませんでした。
悲しい笑みを浮かべつつ、割り切ったような答えを返す七原。しかし彼女には、実は誰にも知られていない秘密があって――。

花子さんを幸せにしたい個人・光永寺と、マニュアルに沿って実体化し保護あるいは処分しなければならない役人・光永寺の葛藤。そして優秀な花子課職員ながら何やら謎めいてる七原に、機械的な霊の駆除にひと言ありそうな渋い上司・青山など、引き込まれる魅力的なキャラクターたちが花子さんと織り成す、“人間&霊ドラマ”。霊を得体の知れないオバケではなく、実体化させることで人間(であった存在)に近づけ、除霊ストーリーに「幽霊退治」とは違う視点を持ち込んだ本作に注目です。

レビュアー

ほしのん

中央線沿線を愛する漫画・音楽・テレビ好きライター。主にロック系のライブレポートも執筆中。

X(旧twitter):@hoshino2009

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