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2025.07.18

レビュー

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全世界待望のコミカライズ! 恐ろしくてすべてが愛にあふれた青春ホラー「OMORI」

2025年の「IT」

漫画『OMORI』の物語を説明するのは、なかなか難しい。なぜなら“いかようにも”解釈できる作品で、さまざまに考察するのが楽しい作品だからだ。そこでこのレビューでは「私としてはこう読んだんだけど」という前提で、スティーブン・キングのホラー小説『IT』を引き合いに出させてもらう。小説を読んだことはなくても、ドラマや映画に登場するピエロの怪物「ペニーワイズ」のビジュアルなら見たことがあるはずだ。この小説は、7人の少年少女の子供時代と、彼らが大人に成長した現在の物語が交互に描かれる。「過去」と「現在」、「子ども」と「大人」という物語の軸があり、それぞれの時代で勇気や友情、ときに犠牲を払いながらペニーワイズと対峙する。そういう物語をイメージしていただきながら、『OMORI』のお話を聞いていただきたい。

『OMORI』の主人公サニーは、4年も引きこもり生活を続けている。彼は3日後に、ママと遠くの街へ引っ越す予定だ。それを聞きつけた幼なじみのケルが、サニーの家を訪れる。
ケルには、医大に進学したヒロという兄がいる。ケルは、サニーとも親しかったヒロが久しぶりに帰ってくるから、一緒にプレゼントを買いに行こうと誘い、街に出るのだが……、そこで会うかつての友達は変わり果てていた。
写真を撮ることが好きな心優しい少年バジルは、サニーに会ってひどく動揺する。
気は強いけれど友達思いだったオーブリーは、サニーを見るなり彼をひどく罵(ののし)り始める。
マリちゃんを
助けられなかった
時から ずっと
そう言われて我を失ったサニーは、ナイフでオーブリーに斬りかかり、そのまま気を失ってしまう。

サニーが目を覚ました場所は、もうひとりの自分「オモリ」がいるホワイトスペースという場所だった。
ホワイトスペースとは、真っ白で、黒猫と裸電球と外への扉だけが存在する世界だ。扉を開けて外に出ると、仲良しだった4年前のケルやヒロ、オーブリー、バジルがいて、優しい姉のマリがピクニックの用意をして彼らを待っている。
ここは4年前から時間が止まったまま。
そう、ここはサニーが作り出した心の中の世界なのだ。
そしてサニーは、なぜかサニーという名前ではなく「オモリ」として存在している。

そんな安らかなオモリの世界にも、不穏な空気が流れはじめる。
バジルが撮った写真をまとめた、幸せいっぱいのアルバム。そこに収まらなかった1枚の写真……。それを見たバジルが突然怯えはじめ、「オモリくん、たすけて」という言葉を残して彼らの前から消えてしまうのだ。オモリたちは消えたバジルを連れ戻すため、冒険を始める。それは、こんな世界だ。
スティーブン・キングの小説『IT』と漫画『OMORI』を対比すると、こうなる。
『IT』の怪物ペニーワイズは、人種差別や親子関係、虐待といったものを「恐怖」に変換して子供たちを追い詰める。そこで抱えてしまった心的外傷(トラウマ)を克服するために、成長した子どもたち(大人)が、改めてペニーワイズと対決するという物語だ。
一方の『OMORI』の子供たちは、現在、リアルに、その「恐怖」にさらされている真っ最中なのだ。オーブリーは母親からネグレクトされているし、ケルは母親から出来の良いヒロと比較され、つらそうな毎日を過ごしている。まだまだ子供の彼らには、逃げる場所などない。サニーだけは引きこもりを選択し、内面世界に逃げ込んだ。自分を守るために「そうせざるを得なかった」理由が、読み進めていくうちにぼんやりと見えてくる。

鍵となるのは、サニーの姉・マリの不在だ。ケルやオーブリー、バジルは優しいマリが大好きだったし、ヒロにとって彼女は唯一無二の想い人だった。そしてマリは、心から弟のサニーを愛していた。しかし、もう彼女はいない。マリの不在には、サニーがなんらかの関わりがあり、その記憶をサニーは封印した。マリがいなくなって4年が経った。

子供たちはマリのいない世界に耐えられなくなっている。
もう限界!
どうしてマリはいなくなったのか?
サニーは、引っ越しする3日後までに、封印した記憶の箱を開けなければいけない。
その記憶がサニーにとって「恐怖」であることが分かっているのに……。

オモリの世界では、スラップスティックなバトルを展開しながら姿を消したバジルを追い、サニーの世界では、完全に崩れ去った友情を取り戻すために子供たちが奔走しながら、記憶を一つひとつ手繰り寄せていく……。と、長々と説明してきたけれど、実は、この漫画の重要なポイントをここまで隠して説明している。

それは、この漫画が販売本数100万本を超えるゲームのコミカライズ作品であるということだ。

我が子にプレイを強要してみた

ゲーム「OMORI」は、2020年にアメリカのインディゲームスタジオOMOCATが発売したRPGである。高校生の我が子に「OMORIってゲーム、知ってる?」と聞いたら、速攻で「知ってる!」という返事が返ってきた。友達にファンがいて「めっちゃ推された」という。ファミコン時代のドット絵風のビジュアルは、昨今インディゲーム界で流行しているので珍しくはないが、ホラー演出がとにかくうまいらしい。Googleで「OMORI」と叩けば「怖すぎ」のサブワードが出てくるほどである。ホラー映画は好物だけど、ホラーゲーム苦手な私には荷が重い。そこでNintendo Switchに「OMORI」をダウンロードし、子供にプレイさせて、そばでずっと見ていた。

怖ぇ~~。

例えばゲームの序盤、いきなりストーリーが行き詰まるのだ。
なにをやっても次の展開に繋がらない。
オモリの持ち物はナイフだけ。
それを装備すると、選択できるコマンドがひとつだけ現れる。
そのコマンドは「刺す」。

このゲームのシーンは、漫画では異なるシチュエーションで登場するのだが……
選択肢が失われ、唯一選べるのが「自傷」というのが、救われねぇ~~。

このRPGゲームは、「MOTHER」シリーズや「ゆめにっき」といったゲームや、日本のアニメ、漫画、さらにポカロPたちの作品から多大な影響を受けたアメリカ人(OMOCAT)が、「死」や「うつ病」をテーマに作り上げたという。これが世界で大ヒット。発売から2年で100万本を売上げ、今も熱烈なファンによって推され、プレイヤーを増やし続けている。プレイを強要された我が子は、「これ以上ゲームの展開が分かると原稿がまとまりそうにないから、原稿を書き上げるまで、漫画2巻目の物語より先はプレイするな」と私に言われてフラストレーションを溜めている。そして、すでに漫画とゲームの展開の違いについて、滔々(とうとう)と語れるほどになっている我が子が、こんなことを言ったのだ。

お父さん、気づいてる?
ゲームでも漫画でも、サニーとオモリはまだ一言もしゃべってないんだよ。
それヤバくない?

ヤバいね。
サニーかオモリが最初に言葉を発するシーン、絶対に怖いと思うよ。
ヤバすぎるって……。

レビュアー

嶋津善之

関西出身、映画・漫画・小説から投資・不動産・テック系まで、なんでも対応するライター兼、編集者。座右の銘は「終わらない仕事はない」。

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