アパートやマンションに住む際、注意しなければいけないポイントがいくつかあります。たとえば「夜中に洗濯機を回さない」、「ペット不可物件で隠れてペットを飼わない」など。そしてもうひとつ。賃貸であれば「大家さんと会ったら笑顔で挨拶をする」という項目も意外と大事。これは人としてのマナーでもあり、またある種の処世術としても一般的だと思いますが、『グリマス』では別の意味合いをもっています。
本作は、いわゆるサバイバルホラーと呼ばれるジャンルの作品です。孤島、あるいは学校などを舞台に、異形な存在に血を吸われたり食べられたり、といった描写を思い浮かべる人も多いでしょう。しかし本作で描かれるのは、一見普通のマンション。
物語は、ごく普通の平凡な一家が、とあるマンションに引っ越してくるところから始まります。主な登場人物は、本作の主人公である城谷家の面々。夫・城谷光司に妻・城谷純、長男・結人。
ちょっと反抗期(?)な長女・真奈
さらに、純の友人で、今回の物件を紹介してくれた川部安子。彼女もこの物件の住人です。
そして、城谷家が住むことになる「高宮サニーマンション」のオーナー。
新居に到着した城谷一家。周辺環境も生活に便利そうで、友人も住んでいることから安心感もあり、新生活に胸躍らせる純。しかし、そんな友人・純の輝く笑顔を目にした安子の表情は曇ってしまいます。
なぜなら、このマンションには、まだ純の知らない大事な大事や約束事があったから。それは……【マンションオーナーの前ではいつ、どんな時でも必ず笑顔でいないといけない】というもの。
純の疑問ももっともですが、安子は問いに答えず、「明日わかるから」と話すと最後に「ごめんね……純……」と告げて去っていきます。
ちなみに、「明日わかるから」の言葉が示す、【オーナーの前ではいつも笑顔】というルールを破った住人の末路が、こちら。
前日の安子の言葉が引っかかっていた純は、この遺体の件で聞き取り調査に来た警察に、 “笑顔ルール”の話をしてしまいます。これは悪いフラグ……! 翌日、憔悴の表情を浮かべて飛び込んできた安子に戸惑う城谷一家。しかし、次の瞬間、安子の肩にとある人物の手が。バグった笑顔を浮かべる安子が振り返った先には。
出ました、怪しすぎるオーナー登場です。彼は“笑顔のルール”について、住民トラブルを避けるため立ち上げた「笑顔で交流プロジェクト」であり、城谷家にも参加してほしいと促します。しかし忖度する気ゼロな真奈のド正論直球がオーナーめがけてストライク。
凍り付く現場でしたが、両親とぶつかる長女という関係性のなかで緩衝材としての感覚が育まれていたのか、幼い長男・結人による空気を読んだ「笑顔でいればケンカは起きない、そういう事だよね? オーナー……」というフォローでなんとか持ち直し、オーナーたちは去っていきました。
どうも何かがおかしい。疑心暗鬼のなかで一旦その日は眠りにつく光司でしたが、ふと目を覚ますとそこには……。
ヤバイヤバイヤバイ。どうしてこうなった!? まだ息のあった純と真奈をなんとか救出した光司。さすがにこれは“おかしい”を超えてシンプルに命の危機! 城谷一家は慌てて「高宮サニーマンション」からの脱出を図るのですが、今度は乗り込んだ車を運転する光司に異変が。
身体のコントロールが利かず、暴走する車。これはきっとあのオーナーの仕業に違いない。死の恐怖に耐えられなくなった光司は叫びました。「わかりましたからああ!! 従いますからあぁ!! 止めてくださあああい!!」と。直後、光司の身体は正気を取り戻し、ブレーキを踏んでなんとか停車。
そこに現れたのはもちろん……!
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ポキッという光司の心が折れる音が聞こえてきそうです。
オーナーの前で笑顔を絶やすとなぜか死が訪れる、恐怖のルール。なにやら不思議な力の持ち主らしいこのオーナーが所有する「高宮サニーマンション」から、城谷一家は無事に逃げ出すことができるのか。薄気味悪い笑顔が並ぶマンション住人たちの中に、城谷一家と共闘する仲間は現れるのか。どうも以前の生活で何か問題を抱えていたらしい、そんな謎も含めてキャラが立っている真奈の活躍にも期待したいところ。
とりあえず明日からは、今自分が住んでいるマンションの住民たちに笑顔で挨拶しようと思います!
レビュアー
中央線沿線を愛する漫画・音楽・テレビ好きライター。主にロック系のライブレポートも執筆中。
twitter:@hoshino2009