中心に“念”が巣食う正統派「Jホラー」の新潮流
「リング」や「呪怨」がハリウッドでリメイクされて大ヒットとなり、Jホラーと呼ばれる日本製ホラーが少なからず世界の映画界に影響を与えた2000年代。ゾンビや「13日の金曜日」のジェイソン、「エルム街の悪夢」のフレディといったホラーアイコンのキャラクター化が進んでいた時代に、Jホラーは強力に人を惹(ひ)きつける邪悪なものを“映像”として見せることに成功しました。呪いのビデオや布団の中に潜む貞子や伽耶子といった邪悪な映像は、「見たくはないが、見てしまうことからどうしても逃れられない」ことが怖かったのですが、シリーズを重ねるごとに貞子や伽耶子がキャラクター化し、そのパワーを落としていくことになります。
そんなJホラーが、「犬鳴村」に始まる「恐怖の村シリーズ」や、「事故物件 恐い間取り」などのヒットで復権の兆しを見せています。これらに共通するのは、残“念”、無“念”、怨“念”といった“念”によって生まれた地縛霊や悪霊、怨霊を描こうとしていること。また、都市伝説として語られる実在の村や事故物件を取り上げ、現実と地続きの設定を重視しているところです。
さて、『スケアリー・キャンパス・カレッジ・ユニバーシティ』もまた、このJホラーの新潮流に則った正統派の作品です。主人公は、バレーボールに打ち込んだ高校時代から一変、「大学デビューしたい!」というゆるふわ系女子の千嵐まひなさん。
「ヤリサー」と評判のサークルの新歓コンパに参加して、「自分とは違う世界の人たち」と思いつつ、イケメンの彼氏ゲットの希望も捨てきれない、ワキの甘さが目立つ女性です。
そんなところへ、イケメンの藤宮くん登場。
当然行きますよね。行ったところが、ヤリサーメンバーがヤる用に使っていると噂の廃墟……。
イケメンの藤宮くんが、いつ豹変して襲ってくるかと思いきや、彼は「幽霊を見てみたいんだ 俺!」と爽やかな顔で言っちゃう心霊マニアだったのです。見たいという人には見えず、見たくもない人に見えちゃう、それがホラーの鉄則。そして、ドーン。
現れたのは、裸のヤリサーの霊。一発で取り憑(つ)かれます!
廃墟から帰ったのち、眠れば必ずヤリサーの霊に犯される夢を見て、追い詰められる千嵐さん。そんな彼女を見かねた学生課の職員が、キャンパス内のある人物を訪ねるように指示します。
その人物とは、タトゥーがガッツリ入った、霊とは違う意味で恐いスジのお兄さん、間九部薫。愛想は悪いのですが、鼻血を出しながら霊に立ち向かう、こうした世界の専門家で、千嵐に力を貸すことを約束します。そして、
「悪霊というモノは 正体を知らなければ祓(はら)えません」
「恐怖と向き合わねば 畏(おそ)れは断ち切れません」
つまり「霊と向き合う地獄めぐりをしないと、霊は祓えない」というわけです。
都市伝説が集まる場所としてのキャンパス
因習に縛られた村やお墓、因縁つきの山道やトンネルといった怪談話に付きもののロケーションと比較して、大学という舞台は少々明るすぎるのでは……と思われるかもしれません。
しかし、「それをしてはダメ」という禁忌(きんき)を破るのに、欲にまみれた大学生ほど最適な人はいません!
それに、若さゆえの夢や希望に敗れて“念”を残すことも多い人たちです。
そういう“念”が残りやすく、禁忌を破りやすい人たちが大量にいる「大学」というハコは、非常にホラーと相性がいい。
ついでに言えば、軽薄な大学生が軽率に都市伝説に関わり巻き込まれるのは正直、痛快です!
間九部薫はこう語ります。
欲に忠実な人は、それだけ心に隙を持っている。そうした心の隙に悪霊の“念”は滑り込み、恐怖に取り込まれてしまう。つまり「魔が差す」。
さて、ヤリサーの霊とはなんなのか?
その正体を突き止めようと探し始めると、行方不明になっているひとりの女性被害者に行き着きます。
彼女の死体を見つけ、被害者の無念を慰めることができれば……と話は展開しますが、そんな簡単にいきません。それどころか、この「新歓コンパ」という全3話のエピソードの、後半にかけての展開のツイストぶりは凄まじいです。
また第1巻には、この「新歓コンパ」以外に「一限講義」と「事故物件」という1話完結の短編を収録しています。特に短編について顕著なのですが、「あれはなに?」「どうして?」と思う読み手に対して、「わからない」とか、「こうなった」とだけ書いて説明を省き、置いてけぼりを食らわす意地の悪さ。最高です。
これを「後味が悪い」と思ってしまう人はまだまだ。
これを「う~ん、後を引くねぇ」と、納豆を味わうように楽しめなくてはホラーファンとは言えませんよ。
レビュアー
関西出身、映画・漫画・小説から投資・不動産・テック系まで、なんでも対応するライター兼、編集者。座右の銘は「終わらない仕事はない」。