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2025.10.12

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課題:この戦争を正義にせよ──広告代理店の最終選考で就職をかけた騙し合い『プロパガンダゲーム』

2025年という混沌とした時代に生きる人にとって、刮目(かつもく)すべき新作漫画が登場しました。その名も『プロパガンダゲーム』。プロパガンダとは、特定の思想や世論などに誘導するための宣伝活動を指します。戦争当事国がメディアやスローガンなどを通じて国民の戦意を煽る、あるいは企業がキャッチコピーやインフルエンサーを使って商品を浸透させることもまた、プロパガンダと言えるでしょう。

作中でも触れていますが、ナチスドイツの戦略として取り上げられることが多いため、ネガティブな印象を持たれるワードでもあります。

本作は、そんなプロパガンダを就職活動の最終選考テーマにした企業を舞台に、2チームに分かれた8人の学生たちが様々な戦略・戦術を駆使しながら競い合う様を描いていきます。

巨大広告代理店の就職試験最終選考は、国民を戦争へと扇動すること!?

日本一の広告代理店「電央堂(でんおうどう)」の就活最終選考に残った8人の学生。彼らが臨むのは面接ではなく、とあるゲームでした。「プロパガンダゲーム」と名付けられたそれは、架空の2国がとある島の領有権を巡り一触即発であるという設定のもと、戦争したい政府側と反戦派のレジスタンス側に分かれた2チームが国民投票でその是非を問う、というもの。
ゲーム内では各陣営が2つのアクションを選択でき、この取り回しが勝敗を分ける大きなカギとなりそう。
本ゲーム特徴としては、以下がポイントとなります。
・政府側予算はレジスタンスの2倍
・PPで購入できる「情報素材」の活用
・レジスタンスは市民アカウントを使い、口コミが作れる
・各陣営にはひとりずつ、敵陣のスパイが潜入している

このような設定・ルールのもとで、政府とレジスタンスが国民へのプロパガンダを仕掛け、自陣の思惑に沿うよう誘導していく、というのが骨子となります。この「プロパガンダゲーム」を通じて就活生は広告代理店の肝となる宣伝の仕事を知る、そして代理店は就活生の適正を見極める、というのが作中におけるこのゲームの目的とされています。

情報操作、フェイクニュース……現代情報社会が抱える闇を捉えた問題作

本作での見どころはやはり、目的を達成するための戦略と戦術、つまりどうやって国民の意見を自陣側に誘導するか、そのためにどんな手段やアイテムを使うのか、という点。就職試験というかたちではあるものの、そこには現代社会で問題になっている権力者やメディアによる印象・情報操作、AIの発達で加速するフェイクニュースといった事象も絡んできます。

今回、2国間で争点となっているは、キャンバスという島の領有権問題。そこで政府側の学生たちは、以下のような方向性を目指します。
一方のレジスタンス側は、政府側学生が作戦会議をする最中に、先手を打って扇動アクションを仕掛けます。
印象操作をもくろむ政府側より先に、印象操作で先手を奪ったレジスタンス側。人は最初に提示された情報に影響を受けやすいという「初頭効果」を狙った戦術です。これに対抗すべく、政府側は別の作戦を立案し対抗していきます。こうして2勢力の戦いの火ぶたが切られました。

人は何に影響されて行動を起こすのか。どんなアクションが人の意思決定を左右するのか。これらの引き金となる戦術を実施するタイミングからその具体的な内容などを細かく描いていく本作を読んでいると、リアルな生活において、私たちは知らぬ間にどれほどのプロパガンダ(宣伝)にさらされているのかと少し怖くなります。

最近でも自治体や参議院、そして先日行われた自民党総裁選といった選挙で、メディアやSNSを中心に様々な情報が広がりました。敵対勢力を貶めるネタ、自陣の評判を上げるニュース。多忙な議員が昼食にコンビニ弁当を食す、といったお決まりのSNS動画もまた、ひとつのプロパガンダと言えるかもしれません(陣営が意図した効果が得られているかは定かではありませんが)。

就活生&人事部社員、個性豊かなキャラクターがゲームの行方を左右する!

本作の中心となるのは8人の就活生。なかでも、レジスタンス側の今井貴也(いまいたかや)と政府側の後藤正志(ごとうまさし)は、それぞれの陣営における狂言回し的な役割を担い、各設定や個別のキャラクターに対する理解を深める手助けとなります。負けず嫌いだったりスピーチ慣れしていたり、暗い過去を抱えていたり。個性豊かな学生たちの言動にも注目です。
まだ明かされない、スパイの存在も気になるところ。

そしてゲームのルールを説明する指導社員的な人事部キャラのふたりも油断なりません。特にレジスタンス側担当となった石川は、チームミーティングの際に「政府の犬どもに差をつけられるわけにはいきません」と発言。単なるゲームとは思えないニュアンスに、含みを持たせます。

こうして「プロパガンダゲーム」と名付けられた就活最終試験が走り出したわけですが、それがたとえゲームという設定だとわかっていても、一瞬ゾッとしたのが次のシーン。
こんな広報があってたまるかと思いながらも、しかし世界のあちこちで今なお進行中の戦争においても、こうした戦略のもとでいくつものプロパガンダが進行しているのでしょう……。

漫画というフィクションの世界で起こるあれこれを楽しむ、という枠組みを超えて、自分や周囲を取り巻くこの世界と地続きであり、「宣伝」「情報」というものの扱い方について警鐘を鳴らす本作。まさに今、様々な思惑のもとで流布される情報の洪水に溺れる私たちにとって、これ以上ないタイミングで投下された必携の作品と言えるのではないでしょうか。

レビュアー

ほしのん

中央線沿線を愛する漫画・音楽・テレビ好きライター。主にロック系のライブレポートも執筆中。

X(旧twitter):@hoshino2009

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