「選挙の勝利請負人」が見せる、驚愕の票読みの精度とは
帰国後まもなく、翼は「神奈川県広塚市」の市長選で現職側に依頼され、半年後の再選に向けて動き始めることに。
その市長選を通じて知り合ったのが、対抗馬として出馬した28歳の元会社員・白根健造(しらねけんぞう)。情熱的だが向こう見ずで、なにより選挙について無知な彼に対して、翼は「選挙マニア」を名乗って何度か、的確なアドバイスを送る。
翼のアドバイスに対し、感謝の意を示していた健造。
しかし投票日前日、最後の演説を終えた健造に対して、翼は衝撃的な言葉を口にする。
健造に名刺を渡して去っていく翼。
翌日の開票の結果、翼の「票読み」の精度は圧倒的だった。健造は惨敗を喫することになる。
さらに落選直後、当選を喜ぶ敵陣の中継映像の中に、翼の姿があることに気づいた健造。
抗議するつもりで翼の事務所に駆け込むが、その場で翼に「なぜ自分が負けたのか」を理路整然と説かれて、さらに落ち込んでしまう。
しかし「勢いだけは一級品」(翼のセリフ)である健造は、そのまま「次回の選挙での当選」を目指して、修業のために翼の事務所でアシスタントとして働くことを決める。
本作は凄腕の選挙コンサルタントである赤城翼と、その有能な助手であるエマ、そして見習いとして新たに「エージェント・ヴィクトリア」に入所した青年・白根健造が、さまざまな選挙を舞台に活躍する「最強の選挙エンタメ」である。
ある意味、ベストタイミングで上梓された「選挙コンサル」の物語
まさに、兵庫県知事選で再選した齋藤元彦知事の公職選挙法違反の疑惑が、ネットをはじめ新聞・テレビなどのマスコミを大きく賑わしている、ど真ん中のタイミングだ。
それらの疑惑の報道を通して「告示日・公示日以降に金銭の授受を経たうえで選挙戦略を企画・立案したり、選挙運動に参画したり」すること自体が公職選挙法違反となる、という認識は、多くの人に共有されたと思われる。
しかし、同時によく耳に入ってくるのが「公職選挙法」におけるグレーゾーンの問題だ。
「べからず法」とも言われ、基本的に「してはいけないこと」が限定列挙の形で規定されている公職選挙法。つまり法律が「想定していない」ような事態に対しては、意外と対応が難しい、といわれている。
政治家のコンサルティングには選挙活動のサポートのほか、政治活動のサポートも含まれる。もちろん誰よりも選挙を熟知している翼が、公職選挙法を犯すような不用意な真似をすることはない。むしろ「勝たせること」に加えて「法律違反をさせないようにすること」が、選挙コンサルティングの大切な役割のひとつと言っていい。本作では原案・監修として、プロの「政治家のためのブランディング戦略家」、鈴鹿久美子氏が入っているのだから、なおさらだ。
1巻で取り上げられているのは、冒頭で触れた「神奈川県広塚市」の市長選に加え、引退したキャバクラ嬢が挑戦する「東京都芦立区」の区議会議員選挙。次巻以降では、なんと生徒会長選挙なども扱うようだ。
日本では、参議院議員選挙は3年に1回、衆議院議員選挙はおよそ2~4年に1回という頻度だが、じつは自治体議員選挙や首長選挙を含めると、年間約1000件(年により700~1500程度のばらつきあり)もの選挙が行われているという。
現実の選挙コンサルでは、どのような手法が使われているのか?
「べからず法」の隙をついたような行為は、違法ではなく「脱法」と言えるのか?
一般的には目にすることがほとんどない、候補者事務所の内幕はどうなっているのか?
選挙はそれそのものが「不安と嫉妬の人間ドラマ」とも言われているらしい。当選に向けての戦略、票読みのノウハウや公職選挙法の基本なども含め、実は「人間の弱さのドラマ」にして「エンタメ性抜群」である選挙の裏側を、気軽に垣間見ることができる本作。
一読すれば、多くの人が選挙について、従来よりも興味深く感じられるようになる一作だと思う。