正義 vs. 悪の対立構造は滅多に存在しない件について
サステナブル・グリーン!
コンプライアンス・イエロー!
テック・ブルー!
ビジョナリー・レッド!
市民を守るヒーロー「イノベイションレンジャー」は、世界征服を目論むブラックショック団と日々戦っている!
……。戦っているのはいいのだが、そのヒーローの名前にちょっと「イラッ」とする。なにか、世の中を先導するキラキラとしたものを、恥ずかしげもなく看板にする感覚。癇に障るわぁ。そう、このマンガの主人公は、このヒーローたちではない。正義とか悪とかには縁遠い、しがない人事コンサルタントのスガワラが主人公だ。
ある夜、スガワラはブラックショック団に拉致される。そこに現れたファク大佐なる男から意外な依頼を受ける。それはブラックショック団の組織改革。総帥のトップダウンで指揮されるブラックショック団の労働環境は劣悪で、ブラック企業並みに疲弊していたのだ。組織論も人事戦略も信用していない総帥は、ファク大佐の依頼を潰そうとするのだが……。
ここでブラックショック団について説明しておこう。
その構成員たちは、後天的にも罹患(りかん)する「過変態症(エビル・シンドローム)」と呼ばれる病気の患者である。原因や治療法がわかっていないこの病気は、角や鱗、触覚など動物や昆虫に見られる特徴が現れ、身体能力の向上やある種の超能力の発露を伴うことがある。当初、患者たちは「超人」としてもてはやされるが、一人の患者による大量殺戮事件が起きてからは「怪人」と呼ばれ、迫害と差別を受けるようになってしまう。そうした患者の差別と貧困の受け皿として発足したのがブラックショック団である。そこでは無茶なノルマを課され、長時間労働やパワハラが常態化しているのだが、居場所のない患者はブラックな環境を受け入れるしかない。ゆえに離職率は低く、勤続年数も長い。
一方のイノベイションレンジャーは「怪人から市民を守る」という大義名分のもとに設立されたスタートアップ企業である。自警活動による対価以上に、怪人の制裁動画による広告収入や、商品タイアップによるビジネスモデルを確立。独自に兵器開発まで行なっている。ブラックショック団へのあおり行動、事件のデッチ上げなど朝飯前の私人逮捕系ユーチューバー企業なのだ(世間の圧倒的支持を受ける彼らは、批判されることもない)。いわば、イノベイションレンジャー vs. ブラックショック団の対立構造は、資本 vs. 貧困であり、マジョリティ vs. マイノリティ。そして共に「正義」を掲げるに相応しくない! つまりこれは、私たちの今の世界そのものなのだ。
愛なき世界に理想を叫べ!
ブラックショック団に組織改革案を提出しても
雇用「主」と「従」業員
生殺与奪の権は我らにあり!
うちの組織じゃ絶対通りません!
決裁に四半世紀はかかるのがブラックショック団!
理想を語るなら実現させる老獪な方法まで考えろ
サラリーマン30年*の処世術
威張れるもんじゃないですが
(*たぶんブラックショック団に入団して30年の意)
そしてスガワラは人事部の現場ヒアリングに着手するのだが、そこでも中間管理職による数字の改竄、評価のデッチ上げが横行していた。スガワラは、その報告会議の末席にいるヒラ団員に接近し、実情を探ろうとするのだが、そこで大量殺戮兵器に関する情報が……。
……と、ここまで引っ張っといてなんなんですけど、実はスガワラ、第1巻の終わりまで、まだなんにもしていません(提案書を書いたぐらい)。主人公がなんにもしてないのに、この盛り上がり方。ただ、スガワラの進む道は見えているのだ。
ここを読んでほしい!
そして一緒に戦うぞ! 事務方で。