カッと血が熱くなるようなマンガぞろいの「ヤングマガジン」で連載中の『暴力万歳』は、ヤンマガらしく数ページに1度のペースで誰かが殴られ、顔面から派手に出血している。
ウワァ~とのけ反りつつも結局はガッツリ見てしまう。やめてほしいけどやっぱりやめてほしくないなあと思ったり、薄目で見ていたつもりが凝視していたり。もうボッコボコだけどもっとやって!
なぜこんなに殴り合っているかというと、シンプルに喧嘩を繰り返しているからなのだが、本作は喧嘩の頻度ときっかけがまったく読めない。
とにかくこのヒロイン、喧嘩を売って買って売って買っての繰り返し。「写真撮ってくれませんか」くらいの勢いで「私と喧嘩してもらえませんか」と喧嘩に誘う。そして相手が女でも筋トレ上等のチンピラでも容赦なく顔面を殴りまくり、相手から反撃されてもニヤニヤしている。おまけに口喧嘩も強い(口頭でのバトルは即終了して拳による戦いに移行するのだが)。
そんなヒロイン“六道せつな(りくどうせつな)”の暴力には独特の「理」と「美」があって、そこが面白い。
六道せつなに出会うまで、“秋田正道”のモットーは「賢く生きること」だった。高校では不動の全科目1位で、東大に行くであろう賢い僕みたいな人間こそが世の中で勝つのだと信じ、自分の周りにいるやつはみんな馬鹿であると思っていた。むしろみんなが馬鹿なおかげで僕の賢さが際立つぞとほくそ笑むタイプだ。
そんなふうに全員を馬鹿にしまくる秋田の態度は、当然だが透けて見えることもあるし、カンに触る。で、ある日クラスの不良に絡まれボコボコに殴られてしまうのだが、ここでも秋田は自分の「賢さ」をとても屈折したやり方で味わう。
秋田は、不良に言われるがまま土下座するのだ。そんな自分の態度こそが賢く、土下座を要求する馬鹿には僕の高度な戦略なぞわかるまい……なんて思っている。
そこにフラッと現れたのが六道だった。
かわいい。両ほっぺのホクロもかわいい。このかわいい彼女は、挨拶もそこそこに不良に喧嘩を売り、ボコボコにするが、なんと秋田のこともボコボコにする。どのくらいボコボコかというと、あちこち骨折して全治2ヵ月。
このかわいい子、不良に絡まれている僕を暴力で助けてくれたワケじゃないの!?とショックを受ける血だるまの秋田に、六道はある事実を言う。ひとつは、自分が暴力で明白に上回っていることと、そしてもうひとつは、暴力こそがこの世で唯一のルールだということ。
前者はともかくとして後者はどういうことか。
なぜか秋田は納得してしまう。そして両手を突いて、頭を地面にこすりつける。ついさっき「僕は賢いからわかっている」なんて考えながらやって見せた土下座よりもずっと生々しい土下座だ。
『暴力万歳』で、暴力シーンを除いて私が一番好きなのは次のページだ。
六道に命乞いの土下座をした惨めな秋田は、衝動的に立ち上がる。その瞬間の理由がめちゃくちゃいい。「敵が自分から視線を切ったから」なんて、賢い彼は今まで考えただろうか。これは喧嘩の作法ではないか。
そして秋田に暴力を浴びせた六道は、その後も相手が半グレどころか全グレの大男でもお構いなしに喧嘩を繰り返す。しかも喧嘩に勝つためならなんでもやる。
六道の喧嘩&暴力教室は毎話参考になる。
そんな彼女とシンクロするように、秋田は少しずつ暴力に目覚めていく。
暴力なんて馬鹿が選ぶことで、賢い自分には関係ないと思っていたのに、「殴りたい」と体が動いてしまう。
ところで、六道は秋田をボコボコにして彼の「賢さ」を蹴り殺したようにも見えるが、同時に彼は自分の「おともだち」なのだともいう。なぜか。
暴力の塊である六道に「似たもの同士」なんて言われてしまった秋田は、六道からどんな暴力を叩き込まれるのか。秋田が喧嘩を売りまくる瞬間を見たみたい。
レビュアー
花森リド
ライター・コラムニスト。主にゲーム、マンガ、書籍、映画、ガジェットに関する記事をよく書く。講談社「今日のおすすめ」、日経BP「日経トレンディネット」「日経クロステック(xTECH)」などで執筆。
X(旧twitter):@LidoHanamori