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2025.05.09

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160キロの最強マシンの正体は……!? バッセンの裏から目指すは夢の甲子園!

週刊少年マガジンに待望の高校野球漫画が帰ってきました。落ちこぼれの3軍が下剋上を果たす『名門!第三野球部』や、主人公のみならず、先輩後輩からライバルたちまで一人ひとりの野球部員を丁寧に描いた『ダイヤのA』など、数々の名作が名を連ねる伝統の週マガ高校野球漫画。今回、新たにその仲間入りを果たしたのは、バッティングセンター育ちの怪物投手が弱小野球部から甲子園を目指すという、青春野球漫画です。

ラグビー部に野球で負けちゃう弱小野球部が舞台

物語の舞台となるのは、星群高校(せいぐんこうこう)野球部。グラウンドの使用権を賭けたラグビー部との野球の試合に敗れ、1年間グラウンドを明け渡した野球部。そのキャプテンにして、熱血野球小僧・甲斐陽人(かいはると)が物語を引っ張ります。
部員数も足りず、周囲からも馬鹿にされる野球部でありながら、そのまなざしはまっすぐ甲子園に向いている熱血漢。そんな甲斐が考える、優れた野球選手の指標が「尻のデカさ」。実際、甲子園の野球中継を見ると、常連校や強豪校の選手は下半身のボリュームがすごい。めちゃくちゃ頑丈そうです。本気で甲子園を目指す甲斐の目に留まったデカい尻の持ち主が、星群高校新入生の駿河彗(するがけい)。
甲斐が思わずひるんでしまうほどの恵まれた体格。再び、1年間のグラウンド使用権を賭けたラグビー部との野球勝負を控えた野球部にとっては是が非でも必要な人材。ということで甲斐は必死にスカウトするも、あえなく撃沈してしまいます。

余談ですが、私も弱小野球チーム出身。小3から野球を始めましたが、全然勝てませんでした。中学でも野球部に入ったものの、イケてる強い少年野球チームの子たちは(坊主頭が嫌で)バスケ部やバレー部に入部。残った者が野球部に集まった、そんなチームでした。練習時、部員の誰一人として柵越えホームランを打てなかったのですが、通りかかった強豪少年野球チーム出身のバスケ部員が「ちょっと打たせて」と言ってあっさり柵越えしたときの情けなさは今も忘れません笑。ラグビー部に野球の試合で負けた星群高校野球部員の悔しさ、私には痛いほどわかります。

160kmの剛速球! バッセンの秘密兵器スルガメテオの正体

甲斐が通うバッティングセンターには、「スルガメテオ」という特別なマシンがあります。プロでも投げられる人はそう多くない、160kmの剛速球と対戦できるスルガメテオのブースが甲斐のお気に入り。これを打てれば甲子園も夢じゃないと頑張る甲斐。でも簡単には打てません。
このバッティングセンターで、甲斐は駿河とばったり遭遇します。実はこのバッティングセンター、駿河の祖父が店長をしており、駿河はここで毎日スタッフとしてバイトをしていたのです。彼を野球漬けの即戦力投手だと思っていた甲斐にとっては思惑が外れてしまいますが、それでも野球部へ熱心に勧誘。「人と関わることが苦手」と言って入部を断る駿河に甲斐は「みんなでやる野球は怖さなんて忘れるくらいすっげー面白いんだ!」と笑顔で語るのでした。

そして迎えた、ラグビー部との野球勝負。しかし、さすがは全国レベルのラグビー部。その運動能力に加えラフプレーも駆使して野球部を追いつめます。ボロボロになりながらも決してあきらめない甲斐の姿を目の当たりにし、ついに立ち上がったひとりの少年。ここまでの小さな点と点が線でつながるような、ゾクっとするシーンは必見です。
そう、160kmマシンの正体は、駿河だったのです。

静と動のコントラスト! スケール感を引き立たせる絶妙な演出

いよいよマウンドに立つスルガメテオこと駿河慧。キャッチャー・甲斐がミットを構え、駿河はボールを握り、ダイナミックなフォームでミットめがけて腕を振り下ろす……ところで差し込まれる1ページ。ラジオから流れる今日の天気、広がる青空、駿河の祖父でもあるバッセン店長の独り言。どこか牧歌的であり、ゆったりした時間が流れるシーンを経て読者の目に飛び込んでくるのは、目が覚めるような駿河の剛速球。
投球動作までの流れを一つひとつ順番に、そして丁寧に描く。時計の針が着実に時を刻むなかで、突如出現する場面転換。この瞬間グラウンドの時は止まり、一拍の間を挟み込んだのち、クライマックスとなる駿河の剛速球シーンへと繋いでいく。

静と動のコントラストが美しく、駿河のスケール感たっぷりなピッチングが際立つと同時に、バッセンという巣から旅立っていく孫の姿を愛情たっぷりに見守る祖父という家族の描写に、なんだか情緒を感じてしまうのです。

バッセンのモンスターマシンが実は高校生だった、というユニークな出発点から、物語はどう転がっていくのでしょうか。星群高校野球部は弱小ながらも、個々に光る素材も見え隠れしますし、もともと実力のある野球少年だったラグビー部エースの鳴海修也(なるみしゅうや)の存在も気になります。

1巻のラストでは、スゴ腕なライバルを登場させつつ、駿河の底知れぬ実力が明らかになるシーンも。マシンとしてではなく、人としてバッターと対戦する楽しさを知ることになる駿河と、彼のボールを受ける甲斐のバッテリーを中心に描かれる“超青春”野球譚。これから夏に向けてグングン盛り上がっていく野球シーズンにピッタリの激アツ作品です!

レビュアー

ほしのん

中央線沿線を愛する漫画・音楽・テレビ好きライター。主にロック系のライブレポートも執筆中。

X(旧twitter):@hoshino2009

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