『黒根さんはニャーと鳴かない』は、まるっきり正反対のふたりが猫を通して少しずつ心をかよわせ、自分の居場所を見つけ出していく心温まるお話です。
北大路衛(きたおおじまもる)は、困っている人がいたら助け、頼まれごとも快く引き受け、誰とでも分け隔てなく接することから「営業部の王子様」と呼ばれる“完璧人間”。
しかし本当のところは、人の期待に応えようとするあまりNOが言えず、周りが作り上げた姿を演じているだけでした。



私もNOが言えず、自分より他人を優先してしまいがち。その結果、相手は感謝するどころか“やってもらって当たり前”となり、モヤモヤが蓄積する……。こんな理不尽な経験をしたことがある人なら、北大路の気持ちも理解できるはず。
そんな北大路が“素の自分”に戻れるのは、コンビニで買ったビールを片手に、大声で落語を話しながら夜道を徘徊しているとき。
ところが、その姿を総務部の黒根さんに偶然見られてしまいます。
会社での黒根さんは、周りから孤立し、いつも怒られてばかり。
北大路が“親切心”で缶コーヒーをあげたときも、失礼な態度をとられました。




このお話には、地域猫とどう接したらいいのかなど、猫に関する興味深い話が出てきます。
例えば、「男性の低い声は動物が威嚇するときの声に似ているため、猫にストレスを与えてしまう」とか。
こんなふうに公園では楽しくお喋りをする黒根さんですが、会社では目を合わせることすらありません。その姿はまるで公園の猫と同じ。彼女もまた、人との距離感を測っているように見えます。
そして黒根さんは、王子様と呼ばれる人気者の北大路と自分は、住む世界が違うと思っているのです。
なんとも不器用だなと思ってしまうのですが、それは私が北大路タイプの人間だから。
あと自分は誰とでも
打ち解けられるって
驕(おご)りがあるのか
分かりませんけど
誰彼構わず無意識に
距離を詰めようとする
所とかもあんまり
良くないですよ
そして北大路は黒根さんに、こんなことを言われてしまいます。

つまり私の中には、北大路も黒根さんも共存しているのです。
黒根さんの様子に戸惑いながらも、頑なな心を優しく溶かしていく北大路。やっぱり北大路は、王子様なのです!!
自分の居場所を見つけることは、自分のままで居られる場所を見つけることでもあると思います。
『黒根さんはニャーと鳴かない』は、全体を通して優しさが漂う作品でありながら、自分を見つめ直すきっかけを与えてくれる作品だと思いました。