猫は細胞までかわいい
体内の細胞たちを擬人化して彼らのお仕事ぶりを知るマンガ『はたらく細胞』には、いろんなスピンオフ作品がある。そりゃそうなのだ、細胞あるところにドラマあり。そんな数あるスピンオフのなかでも本作は特に異色だと思う。
例えば、はたらく細胞シリーズでおなじみのこんな風景を見てみよう。
全身の細胞に酸素を届ける赤い配達屋さんこと赤血球の耳も、酸素を受け取る細胞の耳も、じつに毛深く、ピーンと立ってる。そう、この細胞のみなさんは猫の細胞なのだ。かわいい~~~~~!
かわいいけれど、人間も猫もガバッと大きくまとめれば哺乳類同士。細胞のお仕事も同じなんじゃない? なんて思ったが、あくまで基本的なところが似ているだけなのだそう。
人間と同じように、猫の体内にも血小板がいて、赤血球がいて、白血球がいて、キラーT細胞がいて、みんなせっせと働いている。でも思い出してほしい、我ら人類は(おそらくほとんどの人が)毛玉をデイリーに吐いたりしない。あれ不思議だったんですよね。つまり、猫には猫の生態があり、猫なりの細胞事情があるのだ。
野良猫から飼い猫に変わるとどうなる?
さて、本作の舞台はこちら。
“ミケ”さんだ。ミケさんは今じゃこんな姿でスヤスヤ寝ているが、元は野良猫。少し前に“ひなた”という女の子に拾われて飼い猫ライフを送ることになった。
飼い猫デビューにあたって、ミケさんは獣医さんにワクチンを打ってもらい、ノミ・ダニ予防のお薬を背中に垂らしてもらった。こう見えてミケさんは忙しいのだ。そしてそれは細胞も同じ。
洪水騒ぎ=ノミ・ダニ予防の薬をピチョンと垂らしてもらったあの日のことだろう。皮脂層伝いに薬が全身に行き渡るらしい。
そしてミケさんの胃は今も昔も大忙し。
そうだよね、グルーミングすると口の中にいろんなものが入ってくるよね。とくにミケさんは元・野良猫。当時の胃の中身はこんな感じだった。
がんばって生き抜いてきたんだね……。ミケさんのこれまでの苦労を思うと、人間としては「おいしいごはんをたくさんお食べ!」となっちゃうが、細胞たちにしてみれば、これは両手放しで喜べるものでもないようなのだ。
野良猫仕様の胃に、野良猫時代じゃありえない質と量の食べ物を与えてしまうとどうなるか。
胃の中で大きく膨らむカリカリ! 猫飼いじゃない私にもわかりやすい。
こうしてカッコンカッコンとえづいてミケさんの嘔吐が始まってしまう。飼い主のひなただってビックリ。慌てて獣医さんに相談に行くと……?
心配いらないケースもあるらしい。『はたらく細胞 猫』は、ご家庭に猫を迎えたばかりの人にもぜひ読んでもらいたい。猫と一緒に暮らしていくうえで大切なお話ばかりだ。各エピソードの最後に添えられている原作者の蒼空チョコ先生による猫コラムもとても勉強になる。
かつてタバコを丸飲みしてしまったのは、脳細胞の誰の判断によるもの?
猫の脳内は、大脳辺縁系の裁量がとても大きいらしい。チョイっとお皿をひっくり返してしまうのも、上がってはダメなところによじ登ってしまうのも、大脳辺縁系によるもの。
ということで、猫には猫の事情がいっぱいあって、細胞だって大忙しなのがよーくわかるマンガだ。
こんな巨大毛玉をどうすればいいのだろう。ああ、細胞に休む暇なし。みなさんおつかれさまです。
食べ過ぎでオロロロロ~と吐いたり、ノミで痒くなったりしているうちに、今度は爪のあたりが騒がしい。血小板たちがソワソワし始めている。さあミケさんの身に何が起こっているでしょう。
レビュアー
ライター・コラムニスト。主にゲーム、マンガ、書籍、映画、ガジェットに関する記事をよく書く。講談社「今日のおすすめ」、日経BP「日経トレンディネット」「日経クロステック(xTECH)」などで執筆。
X(旧twitter):@LidoHanamori