2013年にドラマ化され、社会現象を巻き起こした『半沢直樹』の公式スピンオフは、テレビドラマ、オーディオドラマと色々ありますが、まさか猫が主役の『半沢ニャオ樹』として登場するとは!!
このタイトルだけでも十分笑えるのに、主役のニャオ樹は6:4分けの黒毛にネクタイとスーツ、だけど肉球丸出しでプニップニッ歩く。
このおっさんなんだか可愛いんだかわからない姿に心をつかまれました。
もう完全に“出オチ”です。しょっぱなから笑わせてくれます。
この作品の面白さは、なんたってキャラクター達の濃さにあります。
ニャオ樹だけでなく、『半沢直樹』に出て来たキャラクター達が、ごっそり出て来るオールスターキャストなのです。
例えば、半沢直樹の妻の花は「ハニャ」、同期の渡真利(とまり)は「渡ニャ利」、近藤直弼(なおすけ)は「近藤ニャオ弼」、上司の大和田常務は「大和ニャ常務」。さらに西大阪スチールの東田は「東ニャ社長」、タミヤ電気の田宮は「タミャー社長」など、ニャーニャー、ミャーミャーで大真面目にふざけているところが、もうたまりません(笑)。
中でも一番気になるのは、ニャンニャン中央銀行に「金融庁検査」(銀行が正しい行務を行っているか、融資取引に問題がないかを調査)にやって来たこの猫ではないでしょうか?
小説やドラマの黒崎駿一と同様、おネエ言葉の嫌みが健在な黒崎ニャン一。
さすが、猫社会でも存在感は半端ないです!
小説やドラマでは黒崎駿一の私生活はほとんど描かれていませんが、この『半沢ニャオ樹』では、黒崎ニャン一の隠された素顔が色々と暴かれていきます。
もっとも気になるのは、やはり黒崎の婚約者ではないでしょうか?
ドラマの最終回では、大和田常務の忠臣、岸川業務統括部長の娘が黒崎の婚約者ということが明らかになりましたが、その後は謎のまま。
しかし、『半沢ニャオ樹』はやってくれました!
婚約者との出会いから、結婚に至るまでの経緯というか策略、そして披露宴の様子までビシッと描かれています。それだけでなく、黒崎ニャン一の秘められた恋までも。
これがもうやりたい放題で、スピンオフならではの展開なのです。
黒崎ニャン一だけでなく、もう1人、いい味を出しているのが、西ニャン阪スチール東ニャ社長の愛人・美樹。
ニャオ樹の妻・ハニャや近藤の妻も招かれた岸川業務統括部長夫人の奥様会に突如、シャンパン片手に“しゃにゃり、しゃにゃり”と現れる美樹。
ニャンニャン中央銀行取締役会にもシャンパン片手に現れ、男たちだけでなく、大和ニャ常務の妻の貴子も手玉に取るしたたかさは痛快です。
とにかく、こうしたキャラクター達の縦横無尽のハチャメチャ具合が楽しいのですが、「疎開資料」「裁量臨店」「伊勢島ホテルの120億損失」「5億の融資」「粉飾決算」「出向」という『半沢直樹』でもお馴染みの話も出て来ます。
不思議なことに、この文字が出てくるだけで可笑しくて。
まさか難解な銀行用語で笑うとは、思ってもみませんでしたけど。
もちろん、半沢ニャオ樹はこうした困難にも臆することなく立ち向かって行きます。が、いつもあの男が立ち塞がり……、
この6コマの破壊力は、凄すぎる!!
言うまでもありませんが、くれぐれも『半沢ニャオ樹』は『半沢直樹』を読んでから見てください。
そうすれば間違いなく、面白さも倍返しにゃ!!!
レビュアー
「関口宏の東京フレンドパーク2」「王様のブランチ」など、バラエティ、ドキュメンタリー、情報番組など多数の番組に放送作家として携わり、ライターとしても雑誌等に執筆。今までにインタビューした有名人は1500人以上。また、京都造形芸術大学非常勤講師として「脚本制作」「ストーリー制作」を担当。東京都千代田区、豊島区、埼玉県志木市主催「小説講座」「コラム講座」講師。雑誌『公募ガイド』「超初心者向け小説講座」(通信教育)講師。現在も、九段生涯学習館で小説サークルを主宰。
公式HPはこちら⇒www.jplanet.jp