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2025.02.22

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陰キャぼっちJKの暗殺MMORPGライフ! 仮想世界発、ガールズ・バディ・アクション!!

ここ数年の傾向として増えている印象のある、フルダイブRPG内での活躍を描く作品。ちなみにフルダイブゲームとは、VRの技術を駆使して五感すべてを接続し、仮想空間(ゲームの世界)に意識ごと入り込んでプレイするゲームのこと。つまりフルダイブRPGは、現実世界と同じ様な感覚で遊べるバーチャルなRPGということになります。

本作は、そんなフルダイブ系RPGのプレイヤーが主人公。名前は如月小夜(きさらぎさや)。フルダイブ型ゲーム機の最新デバイスである「IMAGINARY」で、『シャドウ・アサシンズ・ワールド』(通称シャドアサ)というゲームをチョイスするところから始まります。

本作における特徴のひとつは、やはり如月のキャラクター。現実世界での彼女は、東京生まれでビジュアルから学校の成績まですべてが平均。ごく普通の一般的な16歳の高校生です。しかし、平均すぎるせいか、学校の出欠確認を飛ばされ、修学旅行では彼女を置いてバスが出発するなど、とにかく影が薄くて存在感がないのです。
どれくらい影が薄いのかを端的に描写したシーンがこちら。
思わず「わかる……」と声が出てしまいました。私も、コレによく陥ります。自動ドアが検知してくれない問題。常日頃から存在感のなさを自覚させられる機会の多い私にとって、この如月小夜は、まさに自己投影してしまう感情移入キャラなのです。

この如月がプレイすることになる『シャドウ・アサシンズ・ワールド』とは、どんなゲームなのでしょう。
如月がチョイスした種は「人間」ですが、この他に「機械」「亜人」「獣人」の3種があり、また4つの暗殺クラスには「狙撃手」「忍者」「武闘家」「呪術師」があります。

また、同ゲームについては「陰キャぼっち御用達の神ゲー」という評価もあり、これは如月にとって有利なゲームになる可能性も。存在感がなく影が薄い、その特性にピッタリのクラスもありますからね。ということで、如月が選んだクラスはこちら。
こうしてさっそく冒険に出た如月(プレイヤー名:クロ)は、討伐クエストで《気配遮断スキル》を駆使しながらゴブリン退治を遂行。
順調な滑り出しと思いきや、恐ろしい気配が――
先ほど倒したゴブリンの100倍となる、10万ものHPを持つ恐ろしい化け物エネミー・《鴉》(カラス)の登場です。初心者プレイヤーである如月にとっては絶体絶命、なのですが、なぜか如月の存在をスルーして通り過ぎていく鴉。その先で《鴉》と出くわした別のプレイヤーチームは、《鴉》に瞬殺されてしまいます。やはり化け物……。ではなぜ、如月は《鴉》にスルーされたのでしょうか。

その秘密は、如月がゲットしたスキルにありました。
ゴブリン退治の際に付与されたEXスキル《気配遮断【絶】》の効果により、化け物級の《鴉》ですら彼女の存在を認識できなかったのです。

これほどのエネミーを欺けるということは、かなりのレアスキル。これは千載一遇のチャンスと考えた如月は、瞬殺されたプレイヤーチームを思い浮かべて一瞬諦めかけますが、それでも心を奮い立たせて《鴉》に立ち向かいます。その勇気の裏にあったのは、これまでの人生で味わってきた孤独と、その孤独を受け入れてきた自分への嫌悪感でした。
彼女の強い気持ちと、レアスキルの効果が組み合わさって、強敵・《鴉》を見事撃破。自らの殻を破った如月は、この討伐以降、暗殺者・クロとして『シャドアサ』プレイヤーの間で噂になるほどの活躍を見せるのです。

自動ドアにすら気づかれない影の薄さ。きっと如月は、飲食店で「すいませーん」と店員さんを呼んでも誰も来てくれないタイプでしょう。私にはわかります。自分がそうなので笑。「どうせ私なんか」と諦めの気持ちに支配されそうになるけれど、どこかで「これじゃダメだ」と悪い流れに抵抗する、その繰り返しの日々。そんな人生を大きく変えるきっかけになるかもしれない『シャドアサ』との出会い。

ここから如月の『シャドアサ』世界での花形プレイヤーぶりが描かれるものと思いながらページをめくると、ひとりの少女が登場。

最強の暗殺者を決める、『シャドアサ』初の多人数同時参加型イベントが開催されるのですが、そこで如月は、エネミーから必死で逃げるプレイヤーを見かけます。しかし、プレイヤー同士が競い合うイベントの特性上、助けることのリスクを考慮した如月の決断はこれ。
EXスキル《気配遮断【絶】》を使ってやりすごそうとする如月。ところが……。
あの化け物・《鴉》に効果を発揮した如月の持つ《気配遮断【絶】》が効かない――!?

如月が盾なら、この少女は矛となるのか。この出会いは、物語、そして如月のクロとしてのゲームライフをあらたなルートへと導いていく……そんな気配をビンビン感じさせてくれます。

現実世界ではネガティブなエピソードばかりの「影の薄さ」が、『シャドアサ』の世界では大きな武器になる。この地殻変動によって得た経験が、もしかしたら現実世界の自分をも変えてくれるかもしれません。

欠点だと思っていた部分が、別の場所では利点になることもあるという、人生におけるひとつの可能性にも想いを馳せることができる本作。如月が繰り広げるゲーム世界での大逆転劇と、彼女自身の成長物語を、影の薄さには自信のある私を投影しながら見守りたいと思います。

レビュアー

ほしのん

中央線沿線を愛する漫画・音楽・テレビ好きライター。主にロック系のライブレポートも執筆中。

X(旧twitter):@hoshino2009

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