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2024.09.07

レビュー

ゲーム創作の沼にはまる。インディゲーム開発は一生終わらない青春だ!

現在、巨大産業となった家庭用ゲーム市場ですが、40年以上前、ファミコン普及前後には、一部のマニアたちがパソコンあるいはマイコンという当時まだ高価だったコンピュータでゲームを作って遊ぶという時代がありました。のちに『ドラコンクエスト』を開発する中村光一氏や、『信長の野望』を大ヒットさせるシブサワ・コウ氏も、自作ゲームを契機に超一流のゲームクリエイターへと羽ばたいたスターです。

本作では、そんな自作ゲーム、言い換えればインディーゲームと呼ばれる、少人数・低予算で開発されたゲーム制作に夢中になっていく主人公とその仲間たちの挑戦を描いています。

主人公は、この男。

ゲーム開発会社で働くプログラマー・山本一途(やまもといっと)。ゲームはプレイするのも開発するのも大好きで、プログラムだけでなく企画アイデアの提案にも意欲的。しかし上司からは苦言を呈されてしまいます。

P9


ゲーム作りに携われること自体は嬉しいけれど、自分の仕事がゲームの中のわずかな一部でしかないことに対するモヤモヤを抱えている青年です。

ゲームをもっと面白くしたい、という情熱をぶつけられない欲求不満を抱えるなか、社内のとある先輩からの誘いが、山本にとってひとつの転機になります。その先輩・清水さんは、会社とは別に趣味でゲームを作っていました。

清水さんからの依頼で、彼が出展するインディーゲーム展示即売会を手伝うことになった山本は、会場の熱気に驚きます。

展示会設営もひと段落したところで、清水さんたちが作ったゲームをプレイする山本は、その面白さにびっくり。

山本のゲーム好きが伝わったのか、「他のブースを回ってくるといいよ」との言葉を貰い、あちこち回ってゲーム三昧。そしてとあるブースで、運命の出会いが待ち受けていました。



彼女の名前は、貫地谷遥(かんじやはるか)。さっそく彼女が作ったゲームをプレイしてみます。

「自分とPC以外何も存在しない空間」という描写から伝わってくる、「ゲームに夢中な山本」の図。あっという間に10分のプレイ時間が終了し、山本はゲームの感想を伝えます。

その言動から、山本もゲーム開発者だと察した遥。ひょんなことから、この未完成ゲームを改良すべく、ふたりは協力してその場でプログラムを修正していきます。小気味よいテンポで描かれる制作シーンと併せて、ふたりの息の合ったコンビネーションにも注目。



こうして改良されたゲームを、目の前で来場者がプレイしてくれます。

ゲームの展示会ですから当然の光景ではあるのですが、スポットとはいえ、仕事とは違ってプログラムの一部ではなく全体に関わることができたゲームを、感想を言い合いながら楽しそうに遊ぶユーザーを目にして、なんだかワクワクしている山本の表情が印象的です。

彼のスキルを見て、インディーゲーム制作に向いていると話す遥に対し、興味は沸きつつも、普段は会社でゲームを作っているので休日はプレイヤーで十分だとやんわり否定する山本。

彼の気持ちもわかります。不満があるとはいえ、好きなゲームを作る現場にいる自分。何をするにしても、人は今の環境を変えるには勇気が必要ですし、何か大きなきっかけ、背中を押してくれる存在いないと難しい。結局いつもの日常、“こっち側”に戻ってしまいそうなこのタイミングで、目の前に現れたのが、背中を押してくれる、いや、グイっと“あっち側”に引き寄せてくれる人。

ロマンたっぷりな誘い文句を放つ遥ですが、インディーゲーム制作においては夢とリアルを詰め込んだ数値目標もあります。



遥がカッコ良すぎます。こんなことを言われて、心が動かない人がいるでしょうか。こうして山本は、逡巡しながらも本業と並行して、インディーゲーム制作の道へ足を踏み入れていくのです。

本作は、インディーゲーム制作の裏側ともいえる様々な仕組みや苦労話が描かれていて、いわゆる業界モノ、お仕事漫画として楽しめる作品となっています。

たとえばゲーム販売における各ポジションの役割を実在する固有名詞を交えて図説するシーンでは、この世界の仕組みを(ざっくりですが)理解することができます。

あるいは、10日間のGW休みを使って一気にゲーム制作を進めようとするシーン。これはゲームに限らず、開発にかかわったことがある人ならいろいろと思うところがありそうです笑。山本と遥の会話も抜群の間で展開されていて、楽しい場面でもあります。

 

また、ゲーム好きの心をくすぐるような演出もあちこちに散りばめられていて、表紙をめくると表れる、このページで早くもワクワクしてしまう自分がいました。

ちょっとしたラブコメ要素もありながら、勝利(=ゲームの完成&ヒット)を掴むべく仲間を増やし、大人も巻き込み、アイデアと努力、そして根性で突き進む。山本と遥は、無事にインディーゲームを完成させることができるのか。彼らの船の行き付く先を、見届けたいと思わせてくれる作品です!

せっかくならふたりが作るゲームを実際にプレイできたら最高ですね……!

レビュアー

ほしのん イメージ
ほしのん

中央線沿線を愛する漫画・音楽・テレビ好きライター。主にロック系のライブレポートも執筆中。
X(旧twitter):@hoshino2009 

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