健全な精神は……
「健全なる精神は健全なる身体に宿る」なんて言いますが、それを言ったローマの詩人ユウェナーリスの原典『風刺詩集』では「健全な精神が、健全なる身体の中にありますように、と願われるべきである」となっているそうな。
なに? そのもって回った言い方。
つまりは大抵、健全な精神は健全な身体に宿らないってことね。じゃあ、病弱だけど健全な精神を持つ少女が、異世界で健全な身体に転生したら? というのが、この漫画だ。
主人公は生まれたときから病弱で、常に数年先まで生きられないと告げられている少女。一度も学校に行けず、死神さんの気配を感じながらベッドの上で過ごしてきた。その命も16歳にしてついに尽きる……と、そのとき。神様から異世界転生を持ちかけられ、少女は食い気味に「やりましょう!」と答えた。
かくして少女は転生した。
えっ? あくやくれいじょう?
そう、異世界に転生した彼女に与えられた役目(ロール)は、過酷な宿命を背負わされた「悪役令嬢」なのだ。
悪役令嬢といってもシンデレラのお姉さんレベルの話じゃなく、最終的に魔王に覚醒しちゃう超悪役。生きているだけで瘴気やよどみ、死霊や死神さんを呼び寄せる「闇の魔力」を持ち、その魔力ゆえに闇落ち確定のキャラ! しかしですね、どんなに願っても叶わなかった「健康」を手にした彼女は、今や無双状態なのです。
ラジオ体操をしている彼女に、吹き飛ばされる死神さんの山。どんどんレベルアップしていきますよー! はいっ、イチ、ニー、サン、シー。両手を振り上げて、バッコンバッコン。
転生した彼女の名前はエリザベート・マックスウェル。こう見えて、いつかに「大魔王」に覚醒する(予定)。
比喩的な意味で、主人公を喰っちゃうぞ
この異世界はRPG風学園ファンタジー乙女ゲーム『聖女と4人の騎士たち』を模した世界。エリザベートはラスボスであって、別にちゃんとした主人公「光の聖女」カレンがいる。この二人がゼルビア王国王立学院に入学して、エリザベートが最終的に闇落ちし、魔王に覚醒してカレンとの決戦に至ることになっている(というか、そうなってもらわないといろいろゲームの展開的に不都合なんだけど……)。
でも今のエリザベートは、レベルが945。カレンはレベル2。ゲームバランスが、はなから崩壊している状態。にもかかわらずエリザベートは、初めての学校生活に「友達100万人できるかな?」と胸ワクで校門をくぐります。そこで魔力測定試験という名の最初の試練が訪れます。
ほらほら、いきなり不都合な展開になった!
なんとか、この窮地を脱するためにエリザベートが繰り出した技とは?
「自重」と「手加減」!
ですが、エリザベートは見事に失敗します。そういうの苦手みたいです。
「みんなドン引き?」と思いきや、物語は意外な方向に展開する。
主人公カレンが、持ち前の“あざとかわいい”天然たらしスキルを発揮して、エリザベートに取り入ってきた!
この異世界はマルチストーリーになっていて、これまで確認された24個の展開のほとんどでエリザベートは闇落ち、からの魔王覚醒へと至っている。しかし、転生したエリザベートの出現で、新たな25個目のシナリオが始まってしまった。はてさて、強大な力を持ったエリザベートは、異世界の秩序(というかゲームバランス?)を破綻させることなく学園生活が送れるのか? いやいや、そうじゃなくて、ちゃんと闇落ちして立派な魔王になるのか? でも、討伐されるはずのカレンと友達になっちゃったし……。
それもこれも、すべてはこの健康な体のせい! 健全なる精神が健全なる身体に宿っちゃうと、もう敵なしです。ストーリーはどっちへ転がっていくか、まったく読めませんが、これだけは言えます!
レビュアー
関西出身、映画・漫画・小説から投資・不動産・テック系まで、なんでも対応するライター兼、編集者。座右の銘は「終わらない仕事はない」。