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2024.10.01

レビュー

人間と魔物が争い奪い合う弱肉強食の「魔境」──商談で平和を勝ち取れ!

映画や漫画、小説、そしてゲームなどエンタメ作品における一大ジャンル、ファンタジー。ただ、ひと口に「ファンタジー」と言っても様々な切り口があり、魔王討伐や国家間戦争、王子・王女の恋愛、復讐劇、さらにはグルメに焦点を当てたものなど多士済々。そんな中で、本作がフィーチャーしているのは「商取引」、つまりビジネスです。人と魔物の双方が物や通貨、行為などを対価に商談する姿を通じて、それぞれが暮らしているこの世界の背景やキャラクターの個性を描き出していきます。

魔王討伐を目指す勇者ルキオラ、そして商館員ビルキス

本作の主人公は、ルキオラ・ルナトリアという少女。


こう見えて、勇者です。「銀の三爪(さんそう)」と呼ばれる、魔物を切り裂く特殊な爪を武器に、魔王を倒すため戦っています。

一方こちらは、商館員のビルキス・ドラコ。



二人の出会いは最悪でした。このときビルキスが扱っていた商品は「魔物のフン」。宮廷の庭師も欲しがるという高級肥料なのですが……。





ルキオラがフンに紛れ込んでいたせいで、地元農民からの信用も失い、商品も台無し。魔物との取引で使う通貨で20万カロンという、熟練工10年分の稼ぎがおじゃんです。

賠償を請求するビルキスに対し、支払いよりも魔王討伐が優先だと主張するルキオラ。



そこでビルキスは、ある仕事を手伝うよう提案。それが、魔物との「商談」でした。

商館員のお仕事

ルキオラにとっては倒すべき存在の魔王ですが、ビルキスは、魔王を含めた魔物自体、取引相手という捉え方。そこには、ビルキスが仕える女王陛下の「魔物との共存」という願いがありました。獅子鷲(グリフォン)の羽根、火鼠(ひねずみ)の毛糸、地質由来の原材料、魔物が蔓延(はびこ)る土地での冒険譚などなど、様々なアイテムを買い付けて陛下の元へ送り届けるのが彼の仕事。

そんなビルキスと共に、さっそく魔物の住む地を訪れたルキオラ。



これまで「倒すべき存在」「奪い合う相手」だった魔物たちと商談を始めるビルキスたちに衝撃を受けるルキオラ。

ビルキスも、容赦ない言葉を投げかけます。そう、ここは勇者が魔王を倒す冒険ではなく、金銭や物々交換によるシビアなビジネスの場。その視点で見れば、ビルキスの言葉は正論です。

これまで「魔境とは人と魔物が争う地」だと教えられてきたルキオラにとって、この光景はショックでした。それでも、「魔王の討伐」という勇者としての使命を捨てることができなかった彼女。

 


 



「平和を求める思い」と「銀貨」が等価交換にならないこと、いや等価交換であるはずがないことをさらりと言ってのけるビルキス……! この商館員が、ビジネスマンとしても、ロマンティストとしても魅力溢れるキャラクターであることが浮かび上がってくる名シーンではないでしょうか。

人間と魔物それぞれの正義

ルキオラには、心の支えとなっていた友人・アルマちゃんを、魔物たちに襲われたせいで失った過去がありました。そんな経験が、魔物を倒して平和を勝ち取るという使命感をより一層強めていたのです。

正義は自分にあると思いこんでいた彼女ですが、いざ魔王と対峙した際に思わぬ言葉を浴びます。

 
 

 
魔物が人を襲うんじゃない。人が魔物を住処(すみか)から追いやっていた……。奪う者と奪われる者がいる世界が、平和と言えるのか。陛下やビルキスの言う「共存」こそが平和への道なのでは……!? そんな疑問を抱いたルキオラは、あれだけ討伐を願っていた魔王に対し、ついに商談を提案するに至ったのです。

そして商談へ

ルキオラによる商談提案の流れを受けて、ビルキスは、魔王に「貴方の弱みを解決する」と交渉開始。

ビルキスの調査で明らかになったのは、魔王は農村を襲っていたが、人の命は奪っていなかったという事実。つまり、魔王が求めていたのは、自身と家族が生きるために必要な農作物だったのです。

 

 

ビルキスの熱い説得により、魔王は家族のため、人と魔物が争う古い慣習を捨てて、新しい道を選択。ビルキスが自らの命を賭した魔王との商談シーンは、見開きも使いながら、強い気持ちが乗り移ったかのような迫力ある描写の連続。槍や剣ではなく、言葉を武器に魔王と向き合う商館員の誇りが伝わってきます。

この後ビルキスは、ルキオラに「商館員にならないか?」と声をかけるのですが、その際に、商談以外にもうひとつ仕事があると説明。それが「各地に点在する魔王と商談成立させ交易路を作り、魔境を平和に拓くこと」。

 

魔王と商談成立させたこの一件で平和の可能性を感じたであろうルキオラが、ビルキスの誘いを断るはずもありません。

こうして、ルキオラは各地の魔王や魔物たちと様々な商談を繰り広げていきます。人ではなく魔物が相手だからこそのユニークかつ一筋縄ではいかない取引にも期待できそう。

そしてもうひとつ、ビジネスにまつわるあれこれが、良いスパイスとなって作品世界を盛り上げているのも本作のポイント。



営業やバイヤーに近い、現代人にも馴染みのある職と、取引相手が魔物というファンタジー要素が化学反応を起こす本作。種族や立場の違いから争う相手と向き合うために必要なのは、武器なのか、それとも――。もしかしたら、現代にも通じるテーマなのかもしれません。

レビュアー

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ほしのん

中央線沿線を愛する漫画・音楽・テレビ好きライター。主にロック系のライブレポートも執筆中。
X(旧twitter):@hoshino2009 

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