タイトルでその世界観や概要を提示する、というのが昨今の異世界ファンタジーモノの特徴です。本作『僕以外全員転生者かよ』もそんな作品群のひとつ。「冒険のパーティーを組んだけれど、自分以外のメンバーは転生者だった」というお話だと想像がつくわけですが、これは始まりにすぎません。
主人公は、辺境の村に住むロコという少年です。魔物の攻撃で呪われてしまった妹ナティを救うため、冒険者となったロコ。
呪いを解く方法を探す旅は、決して簡単ではありません。そのためにまずは仲間探しということで、冒険者たちが集まる“はじまりの街”へ。そこでロコが出会ったのはタイガと名乗る青年。
さっそく一人目の転生者登場です。しかもどうやら関東某県出身らしい。もちろんファンタジー世界の住人・ロコは「千b」など知りません。冒険者ギルドに集う荒くれ者とのケンカも早々に制する強者、タイガ。
祖父に付与されたスキルのおかげで、何やら不思議な情報が飛び込んできたロコ。といっても読者である自分にはめちゃくちゃ馴染みのある内容です。トラックに轢かれたことがきっかけで異世界へと転生する、いわゆる「異世界転生あるある」。
そしてタイガの「解説キャラが仲間になるパターンか」のセリフからも、彼がいた元の世界でも「異世界転生モノ」が浸透していたことがわかります。つまり本作は、読者だけでなく登場人物も「異世界あるある」を認識しているという、メタ視点が楽しめる作品でもあるわけです。いわば、ロコ以外の転生キャラたちと共犯関係のように、作品に登場する様々な「あるある」を共有し、共感する。そんな味わい深い漫画なのです。
というわけで“読者の共犯者”たちはまだまだ登場します。
大腸菌攻撃は地味につらい……!
新キャラ・ソーヤは埼玉県民。千葉県民のタイガとは、関東第3の座を争うバチバチのライバル関係……ですがここは異世界。遠く離れた地なら、隣県同士、手を組むのも自然な流れです。
「俺の『鑑定士』をハズレスキルと呼び俺を追放した前のパーティーよ 俺の凄さに今更気付いたってもう遅いんだが?」と、そのまんま異世界ファンタジーのタイトルになりそうなセリフも登場。「あるある」が止まりません。
転生キャラはまだまだ登場します。
ストーリーとしてのお約束をなぞりながら、ヒロインキャラを救うロコ一行。ピンチの場面で助けてくれたこのチームへの参加を表明した新キャラ・ミアも、やっぱり異世界転生者。
「悪役令嬢」で「婚約破棄」という、ある意味流行の先端をいくキャラクターですね。ちなみに彼女は元神奈川県民であることが明らかにされます。
主人公以外全員トラックに轢かれて異世界転生した元関東の住民というパーティーの完成。これって出オチで終わっちゃうのでは……という心配が頭をかすめますが、大丈夫。まだまだ本作はネタを隠していました。
様々なファンタジー作品で強敵キャラとしておなじみのモンスター・サイクロプス。ロコパーティーも緊張が走りますが、まさかの展開に――!
あっさりとサイクロプスのこん棒を破壊し、「サイクロプスなんかには負けませんよ」と語るロコに、他のメンバーたちは軽くパニックに。そして明かされる衝撃の事実。
辺境の村で育ったロコ。辺境過ぎるその立地、隣には魔王の城がありました……。
スタート地点が初心者エリアというのは、RPGやファンタジーでは定石です。そこで経験値を積んで徐々に遠出して、より強いモンスターとエンカウントする。しかしロコの地元は、魔王の居城エリア。強敵モンスター相手だと知らずに修行を重ねていたロコは、各ステータスがとんでもない成長を遂げていたのです。
新たなキャラクターやモンスターたちと出会う、本筋ともいえるストーリーのなかで、「異世界ファンタジーあるある」だけでない、思わずニヤリとしてしまう絶妙なギャグも散りばめられた本作。チート能力をもった関東からの異世界転生者と、Sランクの自覚がない天然主人公のパーティーは、これからいったいどんな冒険を繰り広げていくのか。
パロディを楽しむには元ネタの知識が必要ですが、そういう意味でこの『僕以外全員転生者かよ』は、異世界ファンタジー好きな読者へのご褒美のような作品かもしれません。あるあるがウケる、つまり異世界ジャンルの成熟ぶりも感じることができる異世界ファンタジーコメディ。ページをめくるたび、次はどんな笑いが待ち受けているのかとワクワクさせてくれる作品です。
レビュアー
中央線沿線を愛する漫画・音楽・テレビ好きライター。主にロック系のライブレポートも執筆中。
twitter:@hoshino2009