今日のおすすめ

PICK UP

2025.02.20

レビュー

New

クラスメートが死んだ。理由はたぶん、わたし──後悔に苛まれる少女の救済の物語

不思議な魅力に満ちた幻想譚

もし、自分以外の誰も、ある人のことを覚えていなかったら?
そして、その「忘れる」きっかけを作ったのが自分だったとしたら──。

取り残され、立ち止まった少女が、蚕のお姫様「ひいさま」に願ったこととは?

養蚕を軸に繊細で幻想的な世界を描く『シルク・フロス・ボート』第1巻が、2025年1月22日に発売されました。
ファンタジーでありながら、現実の感覚を残したまま展開する物語。その絶妙なバランスが光る作品です。

しゃべる蚕「ひいさま」との出会い

中学生の宮島ひかるは、不登校の日々を送っていました。
ある早朝、散歩をしていたひかるは、小川あさひという少女と出会います。彼女は桑の葉を摘んでおり、その手には1匹の蚕(かいこ)が乗っていました。

「あなたの困り事をほどく力があります」
突如、蚕が話しかけてきたことに驚くひかる。
彼女が抱えていたのは、亡きクラスメイト・鹿児島魚子(ななこ)への深い後悔でした。

「魚子が死んだのは自分のせいかもしれない」

自責の念に駆られるひかるでしたが、ひいさまと出会ったのち、世界は一変します。
まるで最初から存在しなかったかのように、ひかる以外の誰も魚子のことを覚えていない──。
ひいさまの願い通り、ひかるは養蚕(ようさん)を始めます。
苦戦しながらも、一つの命と向き合いながら、彼女の止まっていた時間が少しずつ動き出していきました。

養蚕の手順を追いながら、止まった時が動き出す

この物語をより深く味わうためには、養蚕について知ることが欠かせません。

絹(シルク)を生み出す蚕は、古くから人々の暮らしを支える大切な生き物でした。そのため、かつては「お蚕様」と敬われていたほどです。

しかし、蚕は人の手なしには生きられません。
自ら飛ぶこともできず、餌を見つけることもできない。

「人の手なしに生きてはゆけないあの子達をどうか育ててくださいな」
これは、ひいさまがひかるに託した願い。
その言葉の重みを、ひかるは養蚕を通じて痛感していきます。

けれど、養蚕には避けられない現実があります。
繭から生糸を取り出すためには、蛹の状態の蚕を殺さなければなりません。

「育てる」という行為が、「奪う」という選択につながる──。
その残酷さに心を揺さぶられるひかる。
一方で、あさひは淡々と養蚕を続けています。

命の儚さと、命の循環。
ひかるがこの道を進んだ先に、どんな答えが待っているのでしょうか。

傷を抱えた3人の少女たち

亡くなったはずの魚子は、三途の川でひいさまと出会い、彼女の身体をもらいます。
しかし、その姿は少し人間とは異なり、彼女自身も再び生きることに戸惑いを抱えています。

「ひかるのことは許せない」
「生き返ったからといって、何かが変わるわけじゃない」


そんな思いを抱えながら、あさひと共に暮らす魚子。
ひいさまが与えた「もう一度生きる機会」は、彼女にとって救いなのか、それとも──。

また、本作のあらすじには「取り返しのつかない傷を負った3人の少女」とあります。
ひかると魚子の傷は明確ですが、あさひの背景はまだ謎に包まれています。
彼女はなぜ養蚕を続けているのか? ひいさまと何か契約を交わしているのか?

ひいさまは、彼女たちを「救済する者」なのか? それとも「試練を与える者」なのか?
物語が進むにつれ、その答えが明らかになっていくのでしょう。

タイトルに込められた意味

『シルク・フロス・ボート』というタイトルには、さまざまな意味が込められているように思えます。

シルクフロス(絹糸)が、傷ついた少女たちを結び、次の場所へ運んでいく。
それは、彼女たちが自ら漕ぎ出す小舟(ボート)のようでもあります。

また、「フロス(floss)」という言葉には、「けば立つ」「ほつれ」といった意味もあります。
まるで、少女たちの繊細な心や、過去の「傷」を象徴するようにも取れます。

幻想的な物語に秘められた、現実の痛み

『シルク・フロス・ボート』は、不思議で幻想的な世界観を持ちながらも、現実的な痛みや葛藤を鮮烈に描き出す作品です。

取り返しのつかない傷を抱えながらも、それでも前へ進もうとする少女たち。
彼女たちの行く先を、どうか見届けてください。

レビュアー

Micha

ライター。フリーランスで働く一児の母。特にマンガに関する記事を多く執筆。Instagramでは見やすさにこだわった画像でマンガを紹介。普段マンガを読まない人にも「コレ気になる!」を届けていきます!

X(旧Twitter):@Micha_manga
Instagram:@manga_sommelier

おすすめの記事

2025.01.24

レビュー

悔いのない毎日を愛犬と過ごしたいすべての人に。少女と犬が入れ替わった13日間の物語。

2024.08.12

レビュー

夜の渋谷で青春がきらめき出す!! 少女たちの匿名クリエイティブ活動が始まる!

2023.03.11

レビュー

竜を救いたい──命と向き合う少女達の竜医学ファンタジー!

最新情報を受け取る