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2024.08.12

レビュー

夜の渋谷で青春がきらめき出す!! 少女たちの匿名クリエイティブ活動が始まる!

この出会いは運命

過去の出来事は変えられない。でも、誰かとの出会いや言葉が、ネガティブな過去をある日まったく違う色に塗りかえてくれることがある。
『夜のクラゲは泳げない』は、夜の渋谷に集まる女子高生たちの姿を通じて、そんな瞬間を鮮やかに見せてくれる作品だ。

アイデンティティにあふれる街・渋谷。その一角には女子高生・まひるのトラウマが眠っている。



雑然とした通りで落書きにまみれたクラゲの絵。かつての彼女が描いたものだ。

「変なの」「落書きみたい」「誰が書いたんだろうね」……。
まひるはイラストレーター「海月ヨル」として活動していたこともあるけれど、この絵がまひるによるものと知らない友人たちの言葉に心は折れ、自信はどこかに行ってしまった。

何者かになりたい気持ちはあったけど、頑張りを否定されると傷つくことも知っている。今は自分を出さず、周りに合わせて、できるだけ普通であろうと過ごす日々だ。



だから、自分の絵をこんな風に扱われても、何も言えない。
そんな時……。



かわりに声をあげ、まひるの絵を救ってくれたのは元アイドルの“山ノ内花音”。

花音もまた、あることをきっかけにそれまでの道を外れた経験がある。しかしまひると違うのは、「好きなこと」をあきらめる気はないということ。





花音が自分の“好き”を貫くために選んだ道は、匿名シンガー「JELEE」としての活動だ。花音は、その仲間としてまひるを誘う。
今も渋谷に残るトラウマ──クラゲの絵を好きと言ってくれた花音のそんな強さに、心惹かれるまひる。

クラゲには、特別な力があるという。

自分一人じゃ行き先も決めれないし 
透明で存在してるかわかんないし
でも 



 
光り輝く花音といれば、自分も輝ける気がする。
どこか人まかせにも見えるけど、それでもまひるにとって、踏み出した一歩はとても大きい。

「私たち」なら輝ける

もともと、世間からは少しはみ出していた2人。一緒に何かを始めれば、目ざとい人はすぐ気づく。
2人の前に、アイドル時代の花音・「橘ののか」の大ファンだった高梨・キム・アヌーク・めいが現れる。


めいは、「推しごと」として、活動資金10万円を花音に差し出す。
どうして高校生がそんなお金をポンと出せるのか? 実は彼女は、音大附属高校に通うお嬢様。環境に恵まれているだけでなく、幼いころから音楽の英才教育を受けており、コンクールで数々の賞を獲っている逸材でもある。

「推しごと」とはいうものの、彼女が推したいのは、あくまでアイドル「橘ののか」。
お金はあげるから、金髪なんてやめて。バイトなんてしないで。もとのアイドルに早く戻って。今のあなたは解釈違い……。
ありのままの花音を全否定するめいに、花音はこう伝える。「橘ののかはもういない」。



しかし結果から言うと、めいは「JELEE」の作曲担当になる。



ああ、かつては「推し」と「ファン」だった2人の約束が、時を超えてこんな形で実るなんて。

本作は、全12話のアニメ「夜のクラゲは泳げない」をコミカライズしたものだ。アニメから整理された要素もあるが、このコマに続くシーンのようにアニメにはないモノローグで、より強くキャラの心情が伝わる部分もあり、アニメの魅力とはまた違う、マンガならではの良さがある。

それぞれの抱える過去に囚われ、1人では輝くことができなかった花音やまひる、めいが互いに出会い、「私たち」になることで輝きを取り戻していく様子が眩しい。

チームJELEE本格始動

“ソロプロジェクト”JELEEが“チーム”JELEEに進化する、最後のピースはまひるの幼なじみ・キウイだ。



キウイは人気Vtuber「竜ヶ崎ノクス」として活動しており、「自分は最強!」と突き進む、まひるのヒーロー。
都内の超進学校の生徒でもありながら、まひるのためなら協力は惜しまない。まひるにとっても過去を気にせず話せる唯一の存在だ。



ただ、まひると直接会ったのはもう2年も前なのだけど……。



一見キラキラと恵まれているように見えて、キウイもまた、人には見せない顔がある。JELEEとの出会いで彼女の悩みや傷もむき出しになるのだけど、この後の4人を見ていると、それも含めて「運命の出会い」なのだと思える。

そして4人組JELEEはついに、はじめての作品をリリース!

ガールズバンドを題材にした物語はこれまでにもあったけど、JELEEはネット配信を介した匿名アーティストなのが新しい。フロントマンがおらず、全員に脚光が当たること、オーディエンスの反応が早いこと……。ネット配信ならではの新鮮さだ。

ネット上に身を置くことは、流れてくるあらゆる情報を浴びることでもある。



在籍していたグループの動向、イラストについたコメント……。心をざわつかせるものだけでなく、JELEEへの楽曲提供のお願いも!

意外すぎる人の意外なお願い。そしてこの依頼が、めぐりめぐってJELEEをライブのステージに上げることになる。
匿名アーティストのJELEEが、ステージ上でどんなパフォーマンスを見せるのか……。私も、それを早く見たくてたまらない。

レビュアー

中野亜希

ガジェットと犬と編み物が好きなライター。読書は旅だと思ってます。
X(旧twitter):@752019 https://twitter.com/752019

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