波佐間シン(24歳・清掃会社勤務)は、就業時間以外は一人でいたい“ソロ活男子”である。まわりがどう思おうと構わないがコミュ障ではないし、間違ってもボッチではない。あくまで“独りが好きで一人でいる”という点については譲らない! そんな彼が、仕事を終えて眠るまでの時間をこう呼ぶ。
そんなエンペラータイムで、思う存分「群鳥トリッコロシアム(略称トリコロ)」なるゲームをプレイする日々……。そんなエンペラータイムを犠牲にして、他人に割く時間など……
そんな波佐間シンの息づかいを、壁一枚隔てて聞き耳を立てる女がいた!
怖い! これはもしや望月峯太郎作、伝説のお隣さんホラー漫画『座敷女』的な作品?
いやいや、彼女は生粋のボッチ女子・オトナリさん(名前不詳)。彼女は、カラスに荒らされたゴミを掃除している波佐間シンを見て(勝手に)良い人だと判定。ボッチを卒業したい! 一緒にトリコロで遊びたい! その衝動を止められず、ある日彼に声を掛ける。「今度一緒に遊びません?」 そしてCOM相手のゲーム対戦に飽きてきた波佐間シンの心の隙を突き、部屋への侵入に成功。すると……
波佐間シンの“ソロ活”道に、わき道、寄り道は無い。遥か彼方まで見通せる一本道なのである。
2日連続とか無理ですよ!
一人時間ないと死にます!
この感じ……、同棲し始めて2ヵ月後くらいに強烈に感じる「なんかコイツ、邪魔」という畜生な感覚を思い出してしまった(本当にヒドい感覚だ)。しかし、ボッチをこじらせまくっているオトナリさんは食い下がる。
こうして波佐間シンとオトナリさんは、ご主人と、ご主人と遊びたくてウズウズしている小型犬のような関係に。ずっと「待て!」をかけるご主人と、「おあずけ」を喰らい続ける小型犬。これ、なんのプレイ?
「この関係性どこかで……?」と、思い出したのが出端祐大先生の『ふたりソロキャンプ』(モーニング連載中)の最初の展開だった。あっちのソロキャン男子・樹乃倉巌は、どうも最近雫ちゃんといい雰囲気っぽいけど、こっちのソロ活男子は外出などもってのほか。ソロキャンの本を読んで憧れてはみるものの「なんとなくハードル高いっすねー」で完結する。それが波佐間シン。そんな彼が、どうしたことか自らオトナリさんを焼き肉に誘う。もちろん彼女は大はしゃぎするのだが、たどり着いた店は……
1人1台ロースター
好きな部位を好きなだけ楽しめる
新感覚“焼肉ファストフード店”「焼肉ライク」
※公式ホームページより
波佐間シンはソロ活男子であるにも関わらず、ソロ推奨焼肉店におひとり様で入れない! 自己矛盾! というか、面倒くさい! 焼肉とは「それもう焼けてるよとか 狙ってたお肉取られたりして 賑やかに食べるのが醍醐味だと思ってました」というオトナリさんに、「そういうのが面倒くさくて苦手なのが俺です!」と言い切る波佐間シン。彼に「人間関係のミニマリスト」の称号をあげたい。果たして彼に“付け入る隙”はあるのか!
さて、ここまで読んでふと思う。
──オトナリさんって何者?
名前は分からないし、波佐間シンの帰宅時間を毎日チェックして、働いている様子もない。人畜無害な小型犬的性質ゆえに見過ごされているが、冷静に考えれば彼女はヤバいストーカー以外の何者でもない。そこで波佐間シンは、オトナリさんの素性を探ろうとするのだが。
この反応、なにかある! 知りたい! 波佐間シンにムクムクと湧き上がる好奇心! 自分のケータイの連絡先とオトナリさんの素性告白を掛けて、壮絶な(そして史上最もしょーもない)ふたりババ抜きを行うも、波佐間シンは敗退。しかし、次なるチャンスが到来する。彼女が、部屋に出たゴキブリを退治してほしいと泣きついてきたのだ。オトナリさんの生活空間を知る絶好のチャンス……。
もし万が一、この漫画がラブ・コメディであったとしたら、波佐間シンがオトナリさんに好奇心を持ってしまった時点で、実はオトナリさんが優位に立っているのかもしれない。しかし、この漫画はラブ・コメディではない……。ないよね? え? 違うかも。もしかして「MajiでKoiする5秒前」というやつ? いや波佐間シンには、一人焼肉推奨店にひとりで入れないというソロ活男子の底知れなさを露呈させ、オトナリさんに「待て!」と言い続けてほしい。その5秒前を延々と引っ張り続けてほしい、と願わずにはいられない(多分)ラブ・コメディだ。
レビュアー
嶋津善之
関西出身、映画・漫画・小説から投資・不動産・テック系まで、なんでも対応するライター兼、編集者。座右の銘は「終わらない仕事はない」。