呑んべぇには、たまらないマンガです!! 特に立ち飲み屋にひとりで行く人にとっては、“あるある”と言いたくなる話ばかりで、最初から最後までニタニタしながら読みました。
ミシュランの超有名シェフを父に持つ、神乃美子(かんのみこ)。
幼少期から食の英才教育を受け、来る日も来る日も食の採点をし、“氷の味覚女王"と言われるほど、そのコメントは辛辣(しんらつ)。
この“美子嬢”のギャップがキュートで、心を鷲掴(づか)みにされました!!
そんな美子が、誰も自分のことを知らない場所で、もっと気楽に食べたい! とふらりと入ったのが立ち飲み屋。
女性ひとりで立ち飲み屋に入るのは、本当に勇気がいるわけで……。
女性に限らず、こんな経験を持つ人は多いのではないでしょうか?
今ではひとりで入れる店が何軒もある私も、わざわざその店目指して行ったのに、入る勇気がなくて帰る、ということを何度も何度も繰り返したので。
それに、初めての立ち飲み屋では何を注文したらいいのか迷ったり、隣のお客さんと話したいけれど、どう距離を取っていいのか戸惑ったりする感じが、もうわかり過ぎて!!
"美子嬢"と作者である松本明澄(まつもとあすむ)先生に、勝手に親近感!!です。
そして、単なる立ち飲み屋の話だけに止まらず、ちょっとした蘊蓄(うんちく)が語られるのも、このマンガの見どころ。
例えば、ポテトサラダは大正時代に帝国ホテルで考案されたとか、魚介のカルパッチョを生み出したのは落合務シェフだとか、江戸時代には枝豆売りが路上に現れたとか、もうこのまま酒の席で喋(しゃべ)れそうなネタばかり。
私が苦手なナマコに至っては、作り方まで説明してくれます。
そして何より私が面白いと思ったのは、美子の「脳内変換」で出てくるギャグ。
「入った瞬間 ドスで刺されたりしないか…?」というぐらい怪しい雰囲気の立ち飲み屋で、30年も煮汁を継ぎ足して作られた「牛すじ煮込み」を食べた美子。
あまりの旨さに、「脳内変換」された“迷い”はというと……、
金色のビールに銀シャリ。これほど見事な金と銀の例えはないのでは!?
さらに、まずい料理を食べたときの“美子嬢”のセリフ、「皿が泣いてるぞ」もシビレます。さすが、“氷の味覚女王”。
ぶっきら棒なもの言いは、実はコミュ障だからなのですが、お客さんたちとも少しずつ喋れるようになった美子に 「りんごちゃん」という友達もできました。
この本名を明かさず友達になるところも、“あるある”なんですよね。
その「りんごちゃん」と飲んでいるとき偶然現れたのが、幼馴染の料理人、鉄人(てつと)。
料理の腕はからっきしで、“美子嬢”から酷評を受けた鉄人も、今では立ち飲み屋を知り尽くした憧れの存在として「飲みプロのテツ」と呼ばれています。
しかし鉄人は、まだ美子だと気づかず……。新しい展開が加わり、ますます面白くなりそうです。
『立ち飲みご令嬢』を読んでいたら、久しぶりに立ち飲み屋に行きたくなりました。
もちろん乾杯する時は、“美子嬢”の決めゼリフ「乾杯あそばせ」。
もしポカンとされたら、すかさずこのマンガを出して、「これ面白いんですよ」と話しかけて仲良くなる!!という手を使おうと思います!!
レビュアー
「関口宏の東京フレンドパーク2」「王様のブランチ」など、バラエティ、ドキュメンタリー、情報番組など多数の番組に放送作家として携わり、ライターとしても雑誌等に執筆。今までにインタビューした有名人は1500人以上。また、京都造形芸術大学非常勤講師として「脚本制作」「ストーリー制作」を担当。東京都千代田区、豊島区、埼玉県志木市主催「小説講座」「コラム講座」講師。雑誌『公募ガイド』「超初心者向け小説講座」(通信教育)講師。現在も、九段生涯学習館で小説サークルを主宰。
公式HPはこちら⇒www.jplanet.jp