大阪弁を話す外国人顔の登場人物が、それぞれの作品内における小規模なセケンとセカイの中で会話をするだけ。世界を救うわけでも、冒険をするわけでもない。日常を淡々と切り取り続けていく物語。サラ イネス先生の作品に共通するポイントです。
内輪のやりとりをしているだけ。一見それだけに見えるのに読者の心を掴んで離さないのは、全ての作品に「サラ節」が効いているからでしょうか。
そんなサラ先生の新作『誰も知らんがな』が前作『ストロベリー』から3年、やっと来ました。来てくれましたよ!
サラ作品はその時代の世相や風俗を作品に取り入れる塩梅が絶妙なのです。
SNSや、AIスピーカー、クチコミサイトなど、同じ時代に確かに生きている人たちの息遣いを感じられる、そんなリアリティがあります。
そして嫌味のないテンポの良い掛け合いで、回を重ねるごとに読者が登場人物の解像度を増していくことで、まるで隣人を見守るような感覚で作品に親しめるようになるでしょう。
この最新作『誰も知らんがな』はサリィちゃんにアリィちゃんの姉妹に弟・進之介という黄金打線ですから、実家に帰ったような安心感があります。
そこに、ちょっとフクザツな家庭事情と恋愛事情をひとつまみ入れると……。毎号毎巻、目が離せないいつもの味がそこにありました。
サラ先生の作品におけるキャラクターで欠かせないのは、やはり「大阪弁を話す気が強い女性」でしょう。その女性たちが丁々発止(ちょうちょうはっし)やりあう中、それに巻き込まれたり押される男性キャラ。
『大阪豆ゴハン』でいえば松林、『誰も寝てはならぬ』ならばハルキちゃんなどの「強い姉をもったばかりに優柔不断になった男性」が加わることにより最高のホームドラマが生まれてくるのです。
あ、あとは忘れてはいけない「猫」。今回は2匹いるからお得です。
今回、『誰も知らんがな』のレビュー記事を書くにあたり、『大阪豆ゴハン』から全て読み返してみました。改めて読んでみると、これらは「サラ・ユニバース」と言える一つの作品群であると言えるのではないか?と思いまして。
なぜなら過去作の登場人物が、歳を重ねた姿で新作に顔を出すのです。また、現実と同じ時間軸なので、『大阪豆ゴハン』の時に大学生だった松林が、『セケンノハテマデ』で音楽プロデューサーとして成長した姿で登場した時には思わず声を上げてしまったことを覚えています。
それこそ『誰も知らんがな』の晴天荘は『誰も寝てはならぬ』のネネちゃん巴ちゃんの実家か!? と思ったり(同じく実家が旅館ですが、静岡と関西とエリアが違うのでその線はなさそう)、フェスライブ回ではもしかしてメトロ6R4が? と思ったりしましたが。
本筋以外の部分でもそういう楽しみ方ををもっていたりする作品なのです。
今回の舞台は旅館ですから、たくさん変な人が登場できる下地は出来上がっています。
角刈りに元旦那と、色々な人脈からおりなす人間模様が期待できます。
これぞ大人の「日常系」。あなたも一緒に、心地よいサラ・ユニバースの世界に浸かりましょう。
レビュアー
静岡育ち、東京在住のプランナー1980年生まれ。電子書籍関連サービスのプロデュースや、オンラインメディアのプランニングとマネタイズで生計を立てる。マンガ好きが昂じ壁一面の本棚を作るものの、日々増え続けるコミックスによる収納限界の訪れは間近に迫っている。