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2022.05.26

レビュー

【燃え殻原作】SNSのなかった時代──90年代と現在をつなぐ異色の恋愛小説をコミカライズ

1995年、今から27年前、あなたはどこで何をしていましたか?
このころ流行っていたものを覚えていますか?
CDウォークマン、小沢健二、フリッパーズギター、電気グルーブ、横尾忠則、大友克洋、押井守、日焼けサロン、クロムハーツ、デジタルムーバ、炭酸飲料のメローイエロー、温度調節が難しい風呂釜シャワー、CDショップのWAVE、ノストラダムスの大予言、雑誌の文通コーナー……。
これらはすべてこの話の中に出てくるアイテムですが、この時代を知っている人であればきっと、これに紐付けされた思い出が芋づる式に蘇ることでしょう。

代わり映えのしない毎日を過ごしていたボクは、雑誌の文通コーナーで見つけた “犬キャラ”というペンネームに惹(ひ)かれ、女の子と文通を始めます。

しばらくして「会いませんか?」と誘うと、彼女から来た返事は、

わたし、ブスなんです

ボクの記憶の中にある彼女も、こんな感じ。

彼女と初めて会った日に「どんな人生でした?」と聞かれたボクは、こう答えます。






この“かおり”との出会いが、ボクの人生を大きく変えることになるのです!!

エクレア工場から、テレビ番組のフリップやテロップを作る会社への転職が決まったボクは、その足でかおりに報告すると……、


それからというもの、週末はいつも渋谷円山町の安いラブホテルで過ごすことが、ボクの唯一の生きがいとなります。

結局、かおりとは別れることになるのですが、20年近く経ってもボクの心の中のかおりは、色褪せずにいたのです。
でもそれは、ただ単に昔の恋人が忘れられないのではなく、自分を違う場所へと引き上げてくれた人だからこそ、忘れられないのだと思います。

だから、たまたまフェイスブックで彼女を見つけたときもハッとして……、



フェイスブックは、とっくの昔に付き合いが途切れた人でも、勝手に「知り合いかも」と言ってきますからね。
思わず「友達申請」したり、されたりというのはフェイスブック“あるある”なので、ここでもまた懐かしい気持ちになることでしょう。

燃え殻(もえがら)氏原作のこの作品は、先に小説がベストセラーとなり、映画化もされましたが、漫画ならではの良さがとてもよく出ていると思いました。

それは、野原多央(のはら たお)氏が描く“かおり”が、とても魅力的だからです。

そして当時の流行りものを絵で見ることによって、「ああ、これあったなぁ」と一瞬でその時代に行くことができたからです。

1990年代を知らない人からすると、昔を懐かしむなんて!!と言われそうですが、あの時代、バブルで浮ついた世間に反し、将来に対する不安を抱えながらも必死に足掻いていた人にとっては、かけがえのない特別な時代だったのです。

この『ボクたちはみんな大人になれなかった』は、きっと忘れていた様々な思い出を連れて来てくれることでしょう。
私も、渋谷WAVEで買ったカーディガンズのCDを久しぶりに聴きたくなりました!!

レビュアー

黒田順子

「関口宏の東京フレンドパーク2」「王様のブランチ」など、バラエティ、ドキュメンタリー、情報番組など多数の番組に放送作家として携わり、ライターとしても雑誌等に執筆。今までにインタビューした有名人は1500人以上。また、京都造形芸術大学非常勤講師として「脚本制作」「ストーリー制作」を担当。東京都千代田区、豊島区、埼玉県志木市主催「小説講座」「コラム講座」講師。雑誌『公募ガイド』「超初心者向け小説講座」(通信教育)講師。現在も、九段生涯学習館で小説サークルを主宰。

公式HPはこちら⇒www.jplanet.jp

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