身長 is パワー
身長が高かろうが低かろうが、自分1人だと「だから何?」って感じだけど、いざ他人と並ぶと「アッ、こんなに違うわけ?」となる。相対的に自分の「値」が決まる瞬間だ。何を示す値かはわからないが、謎にパワーがある。
『長谷川無双』はその「値」という名のパワーに左右されまくる男の物語だ。
“長谷川無双”の身長は183cm。彼がもともと暮らしていた令和における平均身長が172cmなのに対し、戦国時代の平均身長は155cm。つまり、長谷川をちょっと戦国時代に放り込んでみると、彼のポジションと戦国絵巻はこんな感じになる。
鬼のようにデカい! っていうか武田信玄も上杉謙信もちっさ! 原宿で見かける女子高生より背が低い。上杉謙信が駆る馬だって厳(いか)つい表情にだまされそうになるが、実際はポニーサイズ。みんなかわいい! ああ、この場面を紹介したら本稿の役目は9割方終わったようなものだ。
そう、令和で腐りかけていた若者・長谷川無双がタイムスリップした先は戦国時代。彼は戦にあけくれる乱世を己の身長で一点突破していく。なにせ周りのみんながこうだから。
ちっちゃいなあ。本作は有名武将も足軽も分け隔てなく身長をステータスとして記載する。
やっぱりちっちゃいね。絵の圧はすさまじいのに!
デカさこそ正義。身長 is パワー。長谷川、ずっと戦国時代にいたら?
ここが俺の居場所
長谷川本人だって「このタイムスリップ、大勝利」と思っている。無理もない。令和における彼の人生はこんな感じだったから。
バイトがつらくて毎日泣いていた長谷川。しかもモテない。
身長が高すぎると小柄な女の子から引かれるかな……ってドキドキしながら「183cm」と答えると!
顔は別にいいのと言わんばかりの扱い。気の毒すぎる。つまり、誰からも見てもらえず、大切にされていなかったのだ。大きな体の奥でガリガリ削れて小さくなった自尊心……。長谷川は自身の境遇を「時代ガチャ」にあてはめて嘆く。
令和は長谷川にとって普通よりちょっと下の、平凡でさえない時代。時代ガチャでいうなら令和はN(ノーマル)だった。でも時代ガチャの結果が変われば長谷川の環境も変わる。
これぞ時代ガチャSSR(ダブルスーパーレア)の威力だ。高身長バンザイ!
ひたすら祭り上げられてチヤホヤされていい気分。人を殴っても誰もSNSで晒(さら)したりしないし、戦国時代の人たちは小さくて軽いし、とにかく俺がフィジカル最強。この時代は有利すぎる。浮かれた長谷川は歴史にガンガン介入していくことになる。
いい絵だ。本作は史実に沿いつつ、名だたる武将から一目置かれるデカい長谷川を要所要所に差し込んでくる。「もしあの合戦に183cmの長谷川がいたら?」と考えながら読むのがたいへん楽しい。
とにかくデカい長谷川は敵なし……? もちろん、話はそこまで甘くない。
デカさにはデカさを。時代ガチャSSRに浮かれていた長谷川はどうなっちゃうのだろう。いや、彼はデカいだけの男じゃないし、役立たずの無力な男でもない。だって戦国時代で自信とガッツとプライドを取り戻したのだから。これはちょい泣き虫な長谷川無双の成長譚でもある。2巻でもがんばれよー! 期待してるからねー!
レビュアー
元ゲームプランナーのライター。旅行とランジェリーとaiboを最優先に生活しています。