会社のお昼ごはん
仕事をしている人にとって、ランチタイムはその人の性格がよく現れるひととき。手短に済ませたり、会議も兼ねたパワーランチにいそしんだり。同僚とのコミュニケーションの時間と考えている人もいます。
『きょうのお昼はなんですか?』の主人公・“岡崎ユズル”の職場でのランチタイムはこんな感じ。
白木のお弁当箱にキレイに詰められたおかずとごはん。白黒でもわかる彩りのよさ。この美しいお弁当は、ユズルが自分で作ったもの。自作のお弁当を、自分一人で食べる。そういう「ぼっちランチ」が性格に合っているようです。
そんな彼の人となりは、この髪型と服装からも読み取れます。え、ごく普通のスーツ姿じゃない?って? ちがうんです、ユズルの勤め先はゲーム会社で、しかも開発チームに所属しています。営業ならまだしもゲーム開発者でわざわざ地味なスーツを着て出勤している人は本当にレアな存在。
ほら、ユズル以外の開発メンバーはラフな服装。ひょっとしたら地味なスーツは彼にとって鎧なのかも。前髪が伸ばしっぱなしというのも兜なのかもしれません。でも、頼まれた仕事を全部引き受けて困っているから、鎧兜がちゃんと機能しているのかは少し怪しい。
話をお昼ごはんに戻します。いつものようにぼっちランチを楽しんでいたユズルの前に、ある女性が現れます。
彼女はなぜかユズルの唐揚げをバクッと横取り。「食った……」とユズルが思わず言っちゃうくらいの荒々しいモーションで、怪物みたいに食べた!
この唐揚げ横取りモンスターは、ユズルが働くゲーム会社の広報・“坂上まりあ”。ゲームをユーザーに知ってもらうために自らがいろんなメディアや配信に出演するアイドル的存在です。
キラキラした坂上さんが、なぜゾンビのような表情で唐揚げを横取りしたかはさておき、その唐揚げは素晴らしい一品でした。なぜなら、お料理上手なユズルが試行錯誤を繰り返してレシピを完成させた自信作だから。
ユズルは子どもの頃からお料理が大好きで、いつか“お嫁さん”に食べてもらえるかも……なんて想像したこともあったけれど、過去のトラウマから、結局自分で自分のためにお弁当を作っています。
そしてこの唐揚げ事件をきっかけに……!
なぜか坂上さんのお弁当係に就任。ちなみにこのマンガはレシピつき。坂上さんを唐揚げドロボーにしてしまった伝説の唐揚げのレシピも巻末で紹介されています。
チーズ入りひとくちハンバーグ、黒糖の卵焼き
なかば強引にお弁当係になったものの、ユズルにとって「誰かのために料理を作ること」はすごく怖いことです。この気持ちは、生まれてはじめて誰かのために何かを作った人ならきっと共感できるはず。
でも、あの坂上さんに頼まれちゃったら頑張るしかない。
そう、「あの坂上さん」のことを目いっぱい考えながら、毎日のようにお弁当を作るんです。健気! 玉ねぎのみじん切りは冷凍タイプのものに頼って、その他のところで「ひと手間」かけられないかなって考えたり。実践的かつおいしそうな料理が並びます。
そんなユズルの「ひと手間」を、ちゃんと坂上さんは気がついてくれます。
食べてくれる人のことを考えながら、その人が「おいしい」って言ってくれる様子を想像しながらごはんを作るって幸せなこと。それを食べるのも、すごく幸せなこと。
おいしそうに食べる坂上さんの、くるくる変わる表情は本当にかわいい。こんな秘密のランチタイムを重ねるうちに、もちろん二人の距離は近づいていきます。
とうとうプライベートの連絡先まで!
普段は華やかで仕事のできる広報の坂上さんだけど、ランチタイムの坂上さんは別人。
かわいい。しかもユズルしか知らない顔。これは恋が始まるのも時間の問題かな~お弁当作りがはかどるよ~なんて思っていたら!
淡い期待をアッサリ裏切る坂上さん! どういうこと!? ユズルのお弁当はどうなるの!? 明日のお昼が待ちきれません!
レビュアー
ライター・コラムニスト。主にゲーム、マンガ、書籍、映画、ガジェットに関する記事をよく書く。講談社「今日のおすすめ」、日経BP「日経トレンディネット」「日経クロステック(xTECH)」などで執筆。
X(旧twitter):@LidoHanamori