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2025.01.15

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まんが家になるつもりのペンギン、略して「まんペン」。漫画界のてっぺんを目指す!?

漫画編集部が舞台の日常系異種交流お仕事コメディ

本作『まんペン』の著者、トミムラコタ先生は『ギャルと恐竜』で作画を担当し、現在コミックDAYSで『ギャルとツチノコ』連載中(この『ギャルとツチノコ』がまた、超絶にかわいらしいラブ・ストーリーなので、ぜひ読んでほしい)。そんな先生が「もう何も考えたくない、という日にぴったりの漫画です」という本作なのだが、これがまさに本当にそのとおり! もし、あなたがどんなにしんどい夜を迎えたとしても、これを読めば笑いで心がユルユルになって「人の生き死に以外は、無問題」と思えること間違いなし。

まずはカバー! これを見てほしい。
私が書店員なら、この『まんペン』を異世界転生漫画の横に並べたい! 想像してみてほしい。「チートスキル」「成り上がり」「エルフ」「騎士」「嫁」「無職」など情報が横溢する漫画カバーの横に、この『まんペン』。もうそれだけで笑える。ちなみに本書の帯には「まんが家になるつもりのペンギン。略して──」とある。ならば「転スラ」とか「ダンまち」の隣に『まんペン』があってもおかしくない(いや可笑しい)。

物語の舞台は出版社。女性編集者が、漫画の持ち込みに対応している。
持ち込まれた漫画のジャンルは「日常系オカルトSFラブコメディ」。なんじゃそりゃ。
「ペンギンが持ち込みに来たよ~~~~~」と頭を抱える編集者の笹山さん。漫画編集部で6年目、そろそろ名刺代わりになるような作品を手掛けたいけど、足踏み状態。その現実から逃れるため、異世界に転生した……わけではない。ただ、漫画家志望のペンギンが持ち込みに来ただけ(という説明自体が変なのだけど!)。そして、笹山さんみたいな雰囲気の編集者、いる! 美人でやさしくて、背伸びしないくらいにおしゃれな格好をしていて、「普通にあんまりだからだよ」って、本質的にきっつい事をペロっと言っちゃう編集者、いる!

そんな笹山さんの前に、再びペンギンが現れる。
笹山さんの「ひとつのジャンルに絞ったほうがいい」というアドバイスを受けて、漫画を描き直してきたのだ
だ~か~ら~、言い方!

いつも心にペンギンを

『まんペン』は漫画家を目指すペンギンが主人公だ。しかも「並」の漫画家になりたいわけじゃない。
目標が高い。無闇に高い。でも、それはいいこと。
目標が生々しい。志が高いのかと思いきや「30代でFIREを達成して楽勝人生を生きていきます」みたいな、欲望が透けて見える目標を堂々と言っちゃうペンギン。さらに編集者の名刺をほしがったり、ファミレスで打ち合わせをしたがったり「それ、漫画家しぐさに憧れているだけじゃないの?」と思わせる。さらに「ダイエットしている」とか、ちょいちょい意識高い系を思わせる発言をして、「ペンギンだからいいようなものの、それ人間だったらちょっとウザい感じだぞ!」って感じ。
でも熱意だけは『まんが道』の満賀道雄なみ。よく考えれば、何度も漫画を描き直してくるペンギンはエラい。笹山さんのアドバイスにも耳を傾ける素直さも、評価すべき。ただ……、ただ、出来上がった作品が「ちょっとなんかあんまり」なだけ! このペンギンを端的に言い表すなら“へっぽこ”なのだ。そんなペンギンに引っ張られ、笹山さんも「ペンギンがペンギンの漫画を描いたら、すごいものが出来ちゃうのでは…!?」と、“へっぽこ”な企画を考える始末。そんな愛すべき“へっぽこ”コンビのまわりに、また同類が集まり始める。

なかでも推したいキャラが、大御所漫画家のぎふてつや先生。同じ2文字の県名が入る苗字の先生もいらっしゃるが、その先生とは異なる先生である。どれくらい大御所かというと、「芥川龍之介は芥川賞を読んでいませんが、きふてつや賞は御本人が読んで決めています」がキャッチフレーズの、自分の名前がついた賞があるくらいのえらい先生。繰り返すが、あの先生とは異なる、ということを念頭にココを読んでほしい。
このアドバイスの“どうしようもない”加減、最高じゃないですか? 特に「電源オフにするより罪悪感はない」ってところに「自分の罪悪感を薄めるライフハックを見つけるんじゃないよ!」って突っ込みたい。そして、そんなぎふてつや先生の講釈を聞いたペンギンの表情……。
込み上げる笑い。体を「く」の時にしてその笑いを飲み込み、またこのコマを見ては笑いが込み上げて、飲み込む。この笑いの反芻を都合10分体験した。本作のすごいところは、何回読み返しても面白いこと。読み返すごとに、ペンギンの目、眉毛の傾き方、語尾ひとつ……、なにかが心に引っかかり、笑いがぶり返す。

いつもカバンに『まんペン』を。
もしくは電子書籍でスマホに『まんペン』を。
読めば、しんどかった1日がチャラになります。

この感じ、ぜひご体験ください。

レビュアー

嶋津善之

関西出身、映画・漫画・小説から投資・不動産・テック系まで、なんでも対応するライター兼、編集者。座右の銘は「終わらない仕事はない」。

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