忠犬イッヌ公物語
ブルドッグは25kq前後の中~大型犬だが、パグは7kq前後の小型犬。さらにパグは、紀元前2000年頃にはアジアで存在したといわれ最も古い犬種のひとつ。1630年代に独立した犬種として分類されたブルドッグなど、パグにしてみれば新参者にすぎない。そんなミニ知識はさておき、飼い主としてはSSR(スーパースペシャルレア)級のサリーちゃんを逃す手はないと、おなかを見せて猛アピール! 「お持ち帰り確定か?」と思いきや、
ごめんね
ほんとは飼ってあげたいんだけど
私の家 多分
外より危険だから
やっぱりお持ち帰りしてくれるのか?
パグは匂いの元の4WD車に駆け寄るが、その車は走り去ってしまう。なんとサリーちゃんはチンピラに拉致され、車内で襲われそうになっていた。世界一といわれた日本の治安は、もはや過去の話。危うしサリーちゃん。
しかし、パグにはふたつの特徴があった。
ひとつは人の言葉をしゃべること。
そしてもうひとつは
そう、この漫画は「めちゃくちゃ強い犬」が、何度となくサリーちゃんの危機を救うという話である。どうです、シンプルでしょう。『ゴルゴ13』しかり、『グラップラー刃牙』しかり、常識外に強いキャラが登場すると、物語は勝手に動き出すもの。その最強キャラが犬、それもかわいいパグだったとしてもだ!
さらに、この物語の説明を加えるならば、
1)サリーちゃんはヤクザの「山雅組」組長のお嬢で、やたら命を狙われている
2)犬は、サリーちゃんの前以外では普通の犬を装うことを約束した
3)犬は、サリーちゃんから「イッヌ」と名付けられた
こうしてイッヌは、飼い犬としてご主人サリーちゃんの身の安全を守り始める。
そのイッヌ、凶暴につき
とりあえず、なんの説明もないのだが「——まぁ軍の血腥(ちなまぐせ)ぇハンヴィーよりかは随分マシか」とか、「桃白白(タオパイパイ)的なことじゃねぇのか?」といったセリフの断片から、元は傭兵か軍人、しかも『ドラゴンボール』好きの40代~50代と思われる。しかもかなりの数の“血腥ぇ”戦場を渡り歩いてきたに違いない。であるからして、こうした行動もお手のものだ。
しかし、その潜入の目的は……
安全だと思われていた高校でも、サリーちゃんに魔の手が忍び寄る。謎のイケメン生徒「吉沢くん」は、“鷹の目”というコードネームを持つスゴ腕の殺し屋だったのだ。そんな彼の血の匂いをイッヌが嗅ぎつける(犬だけに)。
この『INNU』という漫画、「パグはかわいい」という事をいいことに、ひたすら想定外の状況、バトル、キメカットを連発するサービス精神満点の一作。どうやら「こっちの方が面白い!」と思ったら、迷わずそっちに舵を切るクセがある作者のようで、サブキャラがみんな極端に走りすぎたり、無軌道に大風呂敷を広げる展開になったりするのもご愛嬌。そしてイッヌがハードボイルドなキメ台詞を吐きながら事態を収拾すると、学校で浮いた存在だったサリーちゃんに友だちが増えたり、危機に瀕したヤクザの組が救われたりと、なんだかちょっといい話に(力技で)してしまう。ナンセンスの壁の一歩手前で繰り広げられるこのコメディ、一旦ハマると抜け出せない!
そんな無敵のイッヌだが、第1巻はライバル登場を予感させて締められる。そのライバルとは……
やっぱり、そうなるよね。
血を血で洗う抗争劇に乞うご期待!