SNSをゆるゆる眺めていたとき、偶然出会ったのが『ギャルと恐竜』の漫画を描かれているトミムラコタさんでした。フラットな構図と抜群の配色。何を描いてもかわいくセンスがいいのですぐにファンに。
原作者は森もり子さん。もり子というお名前ですが男性で、トミムラコタさんとご夫婦です。「もっと私にかまってよ!」というLINEのスタンプが大ヒットしていて、絵を見ると「あ! あのスタンプの人なんだ!」と気付きます。
Twitterでおふたりのコラボ作品を見た日から「素敵な作家さんのチームだなぁ」と思っていました。(このコラボ漫画は『ギャルと恐竜』第1巻の最後に掲載されています)
漫画が連載になったのを知ったとき、トミムラさんが描くカワイイ絵と、森さんが描くクスっと笑えてほっこりする物語が合体して『ギャルと恐竜』になっていて、とてもうれしかったです。手に取れる単行本をとても楽しみに待っていました。ついについに! 1巻が我が家へやって来ました。
しゃべらない恐竜くんと優しいギャル
主人公はギャル・楓と、ひょんなことから一緒に住んでいる恐竜くん。1人と1匹が繰り広げるクスッと笑える何気ない日常。それを描いた物語です。1話完結型のお話で、ページ数も多くないので、少しずつ読んで楽しめます。
ある日、楓は酔った勢いで恐竜くんを拾って帰ってきます。目が覚めると家に「恐竜」がいる。シュールな風景をすんなり受け入れます。お互いに雰囲気を読む。この「雰囲気を読む」という間がとても愛おしく、あぁなんかわかると共感の嵐が続きます。心地よい間とやりとりにほっこり。うちにも恐竜くん来ないかなぁと妄想したくなるほど。
ギャルの楓は良く喋ります。吹き出しからギャルイントネーションの声が聞こえてくような感じがするので不思議です。恐竜くんは音声で話すことがありません。常に表情やジェスチャーのみ。そのコントラストが漫画の面白さを引き出し、読者の想像をかきたてます。
かわいいエピソードが満載の本作から、私が好きなお話をいくつか紹介します。
読むと笑顔になれるのは「これでいいんだ」と思えるから
恐竜くんのお腹が空いていないか気になった楓は、恐竜くんに話しかけます。
「晩ご飯食べる?」の言葉に反応する恐竜くん。猫の缶詰を渡すと渋い顔。渋い顔の恐竜くんの顔、最高です。
そこで楓はカップラーメンを渡します。割り箸を割って、しっかりフーフーして食べ始めます。
何も言わないのに、流れだけで見せてくれるので、つい笑ってしまいます。何かを説明することも、ルールもないのに、なんとなくゆるく進む日常。良い悪いもなく、「これでいい」という感じが読んでいて疲れません。
「わかる~、わかる」と頷かずにはいられない、温かく優しい世界
もうひとつかわいいシーン。楓はコンビニでバイトをしています。
働いているコンビニへ留守番中の恐竜くんが遊びに来ました。楓のバッグを借りて楽しそうに買い物をする恐竜くん。
おでんを選ぶと、たまご・大根・こんにゃく。なんと普通なセレクト(笑)。そして、もちろん普通にカラシを選びます。おでんを買ってあげると、嬉しそうに帰っていく恐竜くん。
全編、どこを切り取っても、楓のギャルっぽさと深い優しさ、恐竜くんの天然でマイペースな感じがそのままコマに納まっています。その風景に「わかる~。わかる」とうんうん頷いてしまう自分が本のこちら側にいます。
絵はとことんかわいいのに、この漫画が持つ独特の「間」は、言葉で説明するのが難しい新感覚の面白さがあります。「間」とは、絵の余白を説明するのに似ています。パッと見て綺麗な絵は「余白」の取り方がすごく上手いことがあります。ただ、その余白について説明するのは難しい、といった感覚でしょうか。ぜひ本作を読んで、不思議な間を体験していただけたらと思います。
途中から少しずつ個性豊かなキャラが増えていきます。親友、元カレ、大家さんと猫たち、バイトの先輩。空気を読んでるようで、マイペース。本音のようで気遣いし合う。自由でおとぼけな恐竜くんをみんなが受け入れて、なんとなくいい感じに暮らしていく。小さな箱庭のような、優しい世界がずっと続きます。
ときには空気を読んだり、気持ちを誤魔化さず、恐竜くんのマイペースさをよしと思える余裕のある暮らしをしていたいなと、漫画を読んでいて感じました。
おまけ。
毎話、色々な方が「ギャルと恐竜」のタイトルを描いています。面白いので読み終わったら、ペラペラと見比べをオススメします。個性がかわいい。
レビュアー
AYANO USAMURA Illustrator / Art Director 1980年東京生まれ、北海道育ち。高校在学中にプロのイラストレーターとして活動を開始、17歳でフリーランスになる。万年筆で絵を描くのが得意。本が好き。