会社員と漫画家、二足のわらじはどっちも好調
「仕事かマンガ、どっちかにしなさい!」と上司に叱責されて「じゃあマンガにします」とアッサリ退職。そして専業漫画家へ……そんな逸話を聞いたことはあるが、最近じゃ首相だってわざわざ「副業を後押し」なんて言ってるのだから、どちらか一つに絞らなくたっていい時代が来ているのかもしれない。
『部長は少女漫画家』は、そんなモダンなお仕事模様をガッツリ描くコメディだ。しかもどっちの仕事にも全力投球。そんな副業界のトップアスリートみたいな男が主人公。可憐な美少女が「トゥンク……」ってときめいてるが、それを描いてる作家本人の顔面には青筋が走ってる。しかも会社には副業のことを秘密にしているそうで……?
バレたら終わるやつ
電機メーカー“竹井エレクトロニクス(株)”の第二営業部第一課の課長“白崎翔”は、その日、とある密命のために社長室へ呼ばれていた。なんと第二営業部の部長の副業疑惑を調査せよというのだ。部長は最近サボり気味で、午後からいないな~と思ったらサクッと直帰したりで、なんだか怪しい。
社内の規定で副業を禁止している企業は少なくない。そもそも業務時間中に業務外のことをするのは懲戒の対象となりうる。上司も人事も労務もバチギレだ。で、史上最速で出世街道をばく進中の白崎ならば、自分の上司だろうがお構いなしにキツく調べ上げてくれるだろう……ということで白羽の矢が立った次第。
そう、白崎は自分にも他人にも厳しいサラリーマンだ。「会社にナイショで少女漫画家をやってる」点を除けばコンプライアンスを遵守している。たとえば部下の仕事の進捗がよくなくて指導を始めても?
昼休みにはサッと切り上げる。確かに昼休みは仕事をする時間ではない。
マンガを読んだっていいし、昼寝をしたっていい(私は昔「スプラトゥーン」の対戦をやってました)。では白崎は昼休みに何をしているのだろう。
昼食はオフィスの自席で手短に済ませ、タブレット片手に会議室へ直行。
白崎の部下たちは、白崎が自己研鑽タイムに突入したんだろうなあと思っているが……?
ついさっきまで部下をド詰めしていた白崎だが、業務時間外の今は、新人漫画家・“羽月メリー先生”として漫画を描き、担当編集者からド詰めを受けている。彼は漫画家として大事な時期にいるのだ。
白崎の副業スタイルは超まとも。漫画の連載ってめちゃくちゃ大変そう。できるんだろうか……という心配はあるけれど、それでも業務時間外だし、いいんじゃない?と思いきや。
業務時間外だろうがなんだろうが竹井エレクトロニクスでは副業なんて論外。万が一バレてしまったら、その日がサラリーマン・白崎翔のXデーとなるだろう。羽月メリー先生の秘密は、死んでも守らないといけない。
読者の生の声が聞きたい!
「羽月メリーなんて少女漫画家、もちろん私は知りませんよ」って顔して会社員生活を送っていけばいいのに、白崎の目の前に無視できない存在が現れる。
白崎の課に配属された新人の“蒼井さん”は、羽月メリー先生のファン。ファンの人が自分の目の前にいる! こんなの初めて! ああ!
たまらんよな。初めて見たものを親と慕(した)うひな鳥のように、白崎は蒼井さんの反応が気になってしょうがない。
白崎が部下にあれこれ指摘する恐怖のフィードバック面談で、なんとか漫画のフィードバックを聞き出せないものか。
少女漫画家としての成長が部長を育てる?
部長に昇進し、連載も始まった。そんな副業サラリーマンの苦労と喜びがいっぱい描かれている。
どちらの仕事も絶対に手を抜かない白崎が、私はとても好きだ。
それにしても「本業」と「副業」をキチンと分けられるものなのだろうか。
鬼気迫る顔してるけど?
実は編集さんからの連絡を待っていた。「ダメならダメで教えてほしい」なんて心の叫びがリアル。まさかあの怖い白崎部長がそんなこと考えてるなんてね。
そしてこんな良いことだって待っている。
ポジティブな感想と、「こうすればもっとよくなる」って意見のさじ加減が羽月メリー先生のモチベーションをグッと上げてくる。だったら、部下への接し方も同じようにしてみたらいいかも? で、それをちゃんと実行するんですよ、部長・白崎翔は。出世頭なのがよくわかる。
そんな彼を快く思っていない人物もいる。
白崎翔と羽月メリー先生の秘密を巡って泥沼の社内政治劇が始まる……? お楽しみに!
レビュアー
ライター・コラムニスト。主にゲーム、マンガ、書籍、映画、ガジェットに関する記事をよく書く。講談社「今日のおすすめ」、日経BP「日経トレンディネット」「日経クロステック(xTECH)」などで執筆。
twitter:@LidoHanamori