「サツドウ」。カタカナだと謎めいた言葉になりますが、これを漢字で表すと、おそらく「殺道」。
本作は、まさにこの「殺す道」を極めた男が、普通のサラリーマンとしての人生を選びつつも、生まれながらにして背負った宿命の渦に巻き込まれていく物語です。
主人公・赤森六男(あかもりりくお)は、お菓子メーカーに勤める若手サラリーマン。まわりから仕事を振られまくったり、指導社員として後輩の面倒を見たりするなど、日々仕事に追われる毎日。
ある日、ちょっとしたことで半グレたちにからまれてしまった六男は、その頼りなさげな見た目からは想像もつかない早業で、「殺すぞ」とイキる彼らを瞬(またた)く間に倒してしまいます。
実は、伝説の殺法術「背神活殺流拳法」を受け継ぐ、血の一族と称された赤森家に生まれた六男。幼少期から父にその殺法術を叩きこまれて育ちました。
外の世界と断絶し、殺しの道を極めてきた彼は、しかしある時、人を殺すたびに自分が消えていくことが耐えられなくなり、この世界から抜け出すことを決意します。そんな六男に父はこう言って、解き放ちました。
運命に抗い、平凡なサラリーマン道を邁進する六男ですが、父の言葉が現実のものとなります。倒した半グレ集団のNo.2である、元キックボクシングジュニアチャンピオン・青田健春という男が六男に興味を持ち、襲撃を仕掛けます。
降りかかる火の粉は払う男。サラリーマンから殺人マシーンへとその表情を変える六男の描写に思わずゾクッ!
表の世界のチャンピオンなど、殺人技を極めた六男にとっては赤子の手をひねるようなもの。鮮やかな技であっという間に返り討ちです。
この六男vs.青田の対決を、たまたま通りがかった男が撮影し、動画をネットにアップしたことから事態は急展開。
動画を通じてその独特な殺人技を目にした、各地の武術家たちは気づきます。この男が使っているのは、あの悪名高き「背神活殺流拳法」であると。かつて、この暗殺武術の担い手である赤森一族によって家族や友など大切な人を殺された武術家たちの、壮絶な復讐が始まるのです。
刺客は世界各国から続々と送り込まれてきます。時には電車内で暴漢まがいの男に襲われることもありますが、そこは六男。虫を追い払うがごとく、あっさり処理。
また、スゴ腕で鳴らすプロの殺し屋による襲撃も。こちらは社内報の取材を騙り、インタビュアーとして会社内で1対1の状況を作り出すという用意周到さ。まさにプロです。しかも足もとには仕込みの毒が!
何も知らず、暗殺者のインタビューを受ける六男、絶体絶命のピンチですが……!
上には上がいる。緊張が走る殺し屋。「背神活殺流拳法」はただ人を殺す技にあらず。相手の細やかな動きや体の重心などから、取材前日の顔合わせの時点でプロの殺し屋だと確信していた六男の華麗なカウンターが決まるのでした。
そんな修羅の人・六男ですが、幼少期からの殺人英才教育のせいでしょうか、サラリーマンや一般人としての感覚は世間とズレています。たとえば近くで刃物を持った男が警官を殴り逃亡中、とのニュースに接したときはこんなリアクション。
また、“忌引き”という制度を知らなかったことを先輩にイジられた際も……
天然疑惑もありますが、世の中の“普通”に自分の感覚をアジャストさせるため、日々悪戦苦闘する六男です。
暗殺武術の達人・六男とプロの殺し屋との壮絶バトルはシリアス展開となりそうですが、六男の世間ズレした感覚が本作にコメディ要素をもたらし、思わず笑ってしまう場面も。このギャップもまた六男の魅力になりそう。
殺しの世界から足を洗った六男は、卓越した殺人術を持ちながら、それでももう殺しはやらないと話します。
これから続々と送り込まれていくスゴ腕の刺客は、いったいどんな手段で六男を襲うのか。そんな強敵たちを相手に、六男はどう対処していくのか。そして、サラリーマン・六男が企画するトンチキ商品は果たして上司に認められるのか!?
対殺し屋戦はもちろん、お菓子企画もちょっと気になる(!?)新感覚暗殺サラリーマンバトル漫画の誕生です。
レビュアー
中央線沿線を愛する漫画・音楽・テレビ好きライター。主にロック系のライブレポートも執筆中。
twitter:@hoshino2009