呼吸器外科のお医者さんが教える「やせ呼吸」
「筋トレやランニングを続けたい(そしてやせたい)」と言う人にかける言葉が私にはない。あんなのは、大好きじゃなきゃやってられない。これが筋トレを愛してやまない私の出した答えだ。最近ランニングも始めたが、これまた「なんて楽しいんだ!」とニヤニヤしないと、まるで続かない。そして続けないと体型は変わらない。
もっとこう、歯磨きや洗顔よりも自然なことで何かないだろうか……と思うと、あるじゃないですか、みんなが自然にやっていること。そう、呼吸。
『お腹からへこむ! すごい「やせ呼吸」』は、私たちが当たり前のように毎分何回も繰り返す呼吸を見直して健康になりましょう、という本。著者は山王病院の呼吸器センター長で呼吸器外科医の奥仲哲弥先生。
奥仲先生の提唱する「やせ呼吸」の効果は、奥仲先生の体型が教えてくれる。まずはこれを見てほしい。
ごまかしの効かないタイトなスポーツウェア姿で、このスッキリ感。フェイスラインもシャキッとシャープ。すごい。とくに私が注目したのは奥仲先生の現在のライフスタイルだ。
平日の平均歩数は一日3000歩弱、運動は週末のゴルフだけ。ストイックな食事制限ナシ。
コロナ禍で自宅にいる時間が増え、一日の歩数がガクッと減り「最低でも毎日7000歩くらいは歩かないと太りやすいな……」と焦っていた私としては「なんでですかー!!」と前のめりで教えを乞いたい。
そんな奥仲先生が習慣にしているのが「やせ呼吸」だ。
「やせ呼吸」が生活の一部になってからというもの、
平日は朝から晩まで仕事をこなし、休日は一日中、ゴルフをしても疲れ知らず。
むしろ若い頃よりも元気かもしれません。やせて、体も元気になって、しかもタダ!
場所も選ばず時間もとりません。
一度、身につけてしまえば、リバウンドをすることもないでしょう。
やります、絶対やります「やせ呼吸」。それに、体型をキープするということは、生活習慣をキープすることなので、意志の力でイヤイヤやってると、やがてリバウンドという名の限界がやってくることもある。だから身につけやすさと続けやすさは本当に大事!
疲れやすく、やせない呼吸
まずは現状把握から始めよう。イラッとして「はあ」とため息をつくとき、口はどうなっているだろうか。そう、ぼんやり開いている。そしてマスクをするとついやってしまうのが口呼吸。
奥仲先生は、この口呼吸こそが心身の不調や疲れやすさ、そして太りやすさの原因になりうると指摘する。
本書では口呼吸のデメリットがわかりやすく(そしてこれでもかってくらい)解説されている。そして「なぜ鼻で呼吸しないといけないのか」が、医師の視点でレントゲン写真も駆使して語られる。
私がとくにドキッとしたのはこちら。
口呼吸では酸素を吸いすぎ、逆に二酸化炭素は吐きすぎてしまい、取り入れた酸素を臓器まで届けられません。
呼吸ではつい「息を吸う」ことや酸素をイメージしがちだけど、ただ吸えばいいってもんじゃないようだ。私の場合、鼻が詰まっていたり呼吸が浅い日は筋トレのパフォーマンスがあがらないのもこの辺に理由がありそうだ。
本書には簡単にできる「酸素保持力チェックテスト」と「吐く力(横隔膜力)チェックテスト」があるので、ぜひ挑戦して自分の呼吸を知ってほしい。
鼻呼吸への第一歩
浅い口呼吸がよくないのはわかった、でも、ずーっと無意識に続けてきた口呼吸をどうやって鼻呼吸にシフトしていけばいい?というのが本書のおもしろいところだ。ちゃんと習慣化できるような工夫がいっぱい紹介されている。
鼻呼吸への第一歩として奥仲先生がおすすめするのが「いの口」呼吸だ。
「いの口」にすると口をぽかんと開けて吐き出すよりも、長く強く息を吐きやすくなります。(中略)
ポイントは息を吐ききってから、さらにグッと吐くこと。こうすると肺に残った空気を吐き出せるので、必要な分だけの新鮮な空気が肺に入ってきます。
実際に「いの口」呼吸と口呼吸を交互にやってみると違いがよくわかる。「いの口」で息をを吐くと、口呼吸ではビクともしなかった肋骨の下あたりがグッと動く。なお、この「いの口」呼吸を練習するのに絶好のタイミングや場所も紹介されている。実践してみると、たしかに楽しかった。
さあ、「いの口」呼吸に慣れてきたら、いよいよ横隔膜をしっかり使った「やせ呼吸」だ。こちらもいろんな練習方法がある。一部を紹介したい。
これも口呼吸で試すとおもしろいくらいお腹が動かない。そして横隔膜をしっかり使うことをイメージしながらゆっくり呼吸を続けるとコテッと寝てしまう。リラックスを司る副交感神経のスイッチを入れるのがこんなに簡単だなんて!
さらに本書では呼吸をしやすくするための呼吸筋ストレッチも複数紹介されている。これがとても気持ちいい。背中やウエストや肩がスッと軽くなる。デスクワークが多めの私にぴったりのストレッチだった。
「やせ呼吸(横隔膜呼吸)」は、横になった状態でも、もちろん立った姿勢でもできる。つまり、これらをマスターすれば、いつでもどこでも可能だ。奥仲先生はこの横隔膜呼吸をこんなふうに習慣化しているそうだ。
せっかちな私は、信号待ち、エレベーター待ちでは横隔膜呼吸が習慣です。するとスーッと気持ちが落ち着いてきます。そんなイラッとしそうな場面では「横隔膜呼吸をする時間をくれてありがとう」と思うようにしています。
名案だ。私もマネすることにした。電車に揺られながらボーッと立っている時間に実践すると「ボーッとしているように見えるけれど、ちゃんと“やせ呼吸”をしてるんですよ」とニヤニヤしている。自分が健康的なことをやっている(しかも隙間時間に!)と思うと、じわじわ楽しくなってくるのでおすすめ!
レビュアー
ライター・コラムニスト。主にゲーム、マンガ、書籍、映画、ガジェットに関する記事をよく書く。講談社「今日のおすすめ」、日経BP「日経トレンディネット」「日経クロステック(xTECH)」などで執筆。
twitter:@LidoHanamori