今日のおすすめ

PICK UP

2023.06.08

レビュー

「草食化」や「恋愛離れ」の若者たちへ。出席者200名超!?人気授業を書籍化。

モグリででも受けたい! 予測不能の恋愛学「魔の金4」

まじめでも、勉強熱心でもない私は、大学生活を通じて一度も「履修登録していない授業に出よう」と考えたことがない。
しかし、東京都立大学南大沢キャンパスで行われている授業「魔の金4」は一味違うようだ。学生の間で「恋愛学」と呼ばれるこの授業は「彼(彼女)にも受講してほしい」と口コミで広がり、他学部の学生や友達の付き添いなど、履修登録をしていない“モグリ”の受講者が続出した。熱心なモグリも含めた出席人数は200名を超え、椅子が足りなくなるほどの人気であるという。

担当教員は、丘沢静也先生。2019年度前期のシラバスには、授業方針として

オペラ、音楽、バレエ、詩・小説などの名作(の名演)をつまみ食いしながら、恋愛をのぞき見する。

習得できる知識・能力や授業の目的として

恋愛作法の達人になるのは、ふふ、無理だろうけど、「恋する私」や「失恋した私」をながめる眼鏡くらいは、手に入るかも。恋は、傷つく絶好のチャンス。めざせ10連敗!

とある。私の知っている「授業」とはずいぶん勝手が違う。なんて面白そう。こんなの、モグリででも受けてみたくなるに決まっている。

本書『恋愛の授業 恋は傷つく絶好のチャンス。めざせ10連敗!』は、10年以上続く人気授業「魔の金4」を書籍化したものだ。

目次にも本文にも、ユニークで一度聞いたら忘れられないキーワードがどんどん飛び出す。ホワイトボードに大書された「モテる男は叫ばない」及びそこから掲げられる「136問題」、失恋ならぬ「捨恋」、優等生とヤンキーそれぞれの世界の見え方を示す「オイラー図」……字面からは何について話しているか想像もできないが、どれも「魔の金4」で恋愛を語る際、大きな柱となるキーワードだ。

授業で扱う“素材”は、『カルメン』や『ドン・ジョヴァンニ』などのオペラ、太宰治の恋文、ヴィトゲンシュタインの哲学、『存在の耐えられない軽さ』にドラマ『あまちゃん』まで、実に多彩。特に『ドン・ジョヴァンニ』は「魔の金4」のヒーローだ。紹介される各エピソードの強烈さに興味をそそられ、一度鑑賞してみたくなる。授業の切り口も様々で、

5月下旬、ばらの季節になると、ばらを〈魔の金4〉のネタにする。

と、どこか優雅な導入から、展開するのは婚外恋愛の話だったりする。いい意味で予想がつかないところもたまらない。そんな「魔の金4」は

恋愛を体系的に考えるのではなく、いろんな方向からながめる、散歩スタイルの浮気な授業。

持ち味そのままに、ライブ中継スタイルで収録されている授業もあれば、授業のリアクションペーパーをたっぷり収録している回もある。授業レポートの文章を味わい、古今東西の名作を縦横無尽に行き来する中でふと、「恋愛」に対する問いの答えが降ってくる瞬間がある。それはこの「予測不能、制御不能のクセあり恋愛学」を体感できた一瞬と言えるだろう。

授業の羅針盤「紙メール」

世界の名作とともに授業を彩るのは、授業のリアクションペーパー・通称「紙メール」だ。授業で書く「紙メール」の内容及び、250文字の「メール課題」の内容の濃さが成績評価の基準となる。この授業には音読係がおり、彼らが紙メールを読み上げることもある。しかし、特定される心配がさほどないこと、堅い文章は必要なく、自然な言葉で思いを綴ればよいこともあって、自然と濃密、かつ赤裸々な内容のものが多くなる。
その「紙メール」が、本書にはたっぷり収録されており、この本の大きな目玉になっている。

モーツアルト『ドン・ジョヴァンニ』の「お手をどうぞ」について書いたある男子の紙メールは、こうだ。

■ドン・ジョヴァンニはとにかく自信に満ち溢れている。(偽りの)目力には凄まじいものがあった。あれだけ見つめられて容姿をほめられれば、悪く思う女性はいないだろう。現代の女性もこういうエネルギッシュなチャラ男(死語)に食い荒らされているのだろう。われわれ非モテのもとには何も残らない。焦土。

それに対する女子のアドバイスは

●そう思っているうちは一生モテないのではと思った。

ドン・ジョヴァンニの押しの強さは賛否が分かれるところだが、「あんな風に迫られたら、私もその気になると思う。ただしイケメンに限る」といった女子の意見が一定の割合を占めてもいる。これは女子も男子を欲望の対象として見るようになったこと、またそれを口に出すことを恥じないようになったことを象徴する常套句だと、丘沢先生は言う。紙メールの内容から、恋愛やジェンダー観の傾向を導き出せるのは、10年以上続き、参加者多数の「魔の金4」ならではだ。

コミカルなものだけでなく、心の内をさらけ出すような「紙メール」もある。214ページの課題「透明な夫婦」と、それに関する紙メールは「心の穴」について語られる。結婚とは? 心の穴とは? またそれをふさぐには? 永遠の愛とは? ……「授業用」の取り繕った答えではなく、各々の恋愛観がそのまま反映された文章は、何度も読み返したくなる。

コントロールできない局面で、どうふるまうか

「伝えたからと言って、伝わるとは限らない」。これは「魔の金4」のメインキャストともいえる問題だ。
恋愛は頑張りによって上手くいくものではなく、相手どころか、自分の気持ちもコントロールできない。「私は、私という家の主人ですらない」と、かのフロイトも語っている。
そんな「コントロールできない局面」でどうふるまうか? この本を開き、紙メールを読み、自分だったら何を書くか、考えてみよう。学生たちが恋人や友達にもこの授業を受けてほしいと感じたように、誰かと語り合いたくなるかもしれない。それはきっと自分を掘り下げていく作業になる。恋愛だけでなく、広い意味でコミュニケーションについても考えを深める機会になるだろう。

レビュアー

中野亜希

ガジェットと犬と編み物が好きなライター。読書は旅だと思ってます。
twitter:@752019

おすすめの記事

2023.05.01

レビュー

100万部の大ベストセラー『生協の白石さん』が、18年ぶりに戻ってきました!

2022.10.24

レビュー

愛さずにはいられない女になる4つの法則。男を惚れさせる「愛されワード」

2023.05.20

レビュー

明日を変えるための「30の教え」。人間関係、仕事、恋愛……泣きたい日の人生相談

最新情報を受け取る