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2022.03.01

レビュー

どうして最近の芋焼酎は臭くなくなった? 魅惑の酒、焼酎の七不思議に迫る。

焼酎は不思議な酒です。とりたてて人を惹きつける華やかな香りがあるわけではありません。ですが、その匂いを嗅ぐと、たちまちホッとくつろぐ安らぎの世界に浸ることができます。

本稿で紹介する『焼酎の科学』の序文にて、著者の1人である鮫島吉廣氏はこのように述べています。ひるがえって皆さんは、焼酎にどのような印象を持っているでしょうか。私はどちらかというとアッパーな感じで騒いで味わうよりも、語らったりリラックスしたりと、しみじみと味わうシーンに合う雰囲気をたたえたお酒だと個人的に思っています。

冒頭の鮫島先生のような、40年焼酎の研究を続けてきた人も「安らぎをもたらしてくれるお酒」、という印象を持たれているようなので、おそらく皆さんもワイワイ騒ぐ時のお酒というよりも、日常の中でのハレを演出してくれるもの、なのではないかと思います。
焼酎はあまりにも我々日本人の生活の中に、自然に、偉ぶることなくそこに居る身近すぎるお酒だと個人的には認識していました。
そのためワインやクラフトビールのように大袈裟に語ったり、うんちくを楽しんだりするようなことはほとんどありませんでした。ですが、いま少し大きなお酒売り場に足を運べばさまざまな土地から、さまざまな原料で生まれた焼酎たちがワインにも負けないくらいに所狭しと並んでいます。
あまりにも泰然としているその佇まいで見落としてしまっていましたが、実は語るべきことがらをたくさん秘めている酒でした。今更ながらそんな気持ちにしてもらった1冊です。

さて、焼酎は蒸留酒であることはご存知ですよね。米や麦や芋などのメジャーな穀物から、そば焼酎や胡麻焼酎などの種類があることも酒飲みならばご存じでしょう。でも製法や由来なんかは、そこまで深掘りはしないのではないでしょうか。あくまで蒸留酒で、プリン体も少ないしカロリーも少ないからいいぞ、くらいの捉え方で。
しかし本書は、「泡盛は焼酎なの?」みたいなあやふやな人でも焼酎の歴史と分類について軽くウンチクを語れるくらいの内容を、歴史を紐解きつつ、基礎知識から解説してくれます。

乙類焼酎と甲類焼酎との違いは? 本格焼酎って何? みたいな基本的な部分。
蒸留の過程で、連続式蒸留機で蒸留して、純粋なアルコールに近づいたものを加水したものは「焼酎甲類」に分類上され、単式蒸留機で蒸留を行ったものは「焼酎乙類」に分類される。このようにまずは蒸留方法で甲類と乙類が分類されますが、そもそも焼酎は基本的にどんな原料でも焼酎にできるそうです。旅先の土産物屋で変な焼酎を見かけた経験、ありませんか?
しかしながら酒税法の基準には「焼酎として認められない」原料があります。
それらの原料を使用した場合は、焼酎ではなく別の蒸留酒に分類されるという条件があるので、あくまで「焼酎」にはならないだけなのですが。
例えば果実を使うとブランデーの区分になり、麦芽を使うとウイスキーの区分になるように、税制によって酒の種類が変わってしまうからだそうです。
他にも、焼酎乙類の区分においても、特定の原材料を使用した場合で、添加物が一切ないものは「本格焼酎」と呼称できるようになるなど、技術とマーケティングと法律が絶妙に入り組んでいるところは業界と国とのせめぎ合いを感じられます。

そもそも、蒸留酒ということは「湯気」の集まりであるわけで、そんな湯気の集まりの中に見出せる原料ごとの違いなんて微々たるもののはずなのにこのような違いが生まれていることが非常に興味深い部分です。


そういった部分もブルーバックスらしく科学的に紐解いてくれるので、ロジックで楽しむ人にも満足できるのではないでしょうか。

そして個人的にとても興味深かったのが、焼酎の風味を表現するときの物差しと使い方の解説でした。フレーバーホイールという名称だそうですが、このように具体的な指標に絞ることで、逆に主観的な情報がより情報量を持って伝えられるわけですね。この図にあるフレーバーホイールは芋焼酎のものだそうですが、本格焼酎を包括的に扱うものも近年(2021年)に発表されているそうなので、見てみたいところです。


フルーティな、と言う表現はよく耳にするけれど、「実際にリンゴなのかバナナなのか色々ある中でどんなフルーティなのか?」という齟齬をなくす取組みがあるということを寡聞ながら存じ上げなかったので、これから酒屋さんでおすすめを聞く際に参考にするつもりです。

こんな時代なので、なかなかそういったお酒の機会を設けることが難しいからこそ、貴重な気のおけない仲間と差しつ差されつの機会を大切にして、近況を語ったり、よもやま話に花を咲かせたりしたいのです。
初めはビールで。そして段々と酒が進んだら焼酎のボトルを入れてからが本番。車座になって各々好きな飲み方で楽しむあの時間。恋しいですね。

著者の鮫島さんともう1人の高峯和則さんともども好きな飲み方はお湯割りだそうなので、私もそれに倣って今夜はお湯割りで晩酌をしようと思います。皆さんもおうちでぜひ。

レビュアー

宮本夏樹 イメージ
宮本夏樹

静岡育ち、東京在住のプランナー1980年生まれ。電子書籍関連サービスのプロデュースや、オンラインメディアのプランニングとマネタイズで生計を立てる。マンガ好きが昂じ壁一面の本棚を作るものの、日々増え続けるコミックスによる収納限界の訪れは間近に迫っている。

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