年間7億円売り上げるキャバクラ嬢
インスタグラムでいろんな世界を「マジかー!」と眺めると元気が出る。なかでも歌舞伎町のキャバクラ嬢"一条響"さんのインスタが楽しい。古今東西、いろんな有名キャバ嬢のアカウントを探したけれど私は彼女のが一番好きだ。
毎日きちんとお店に出勤して、にっこり働いて、キラキラと華やかなシャンパンが毎晩何本も飛び交って、仕事終わりに「ふう。」というコメント付きで「締めの梅昆布茶」を持つ手が投稿される。おつかれさまです! と思う。ときどき指からはみ出そうなくらい大きなダイヤの指輪も拝めるけれど、基本「働き者」の言葉少なめなインスタだ。見てて気持ちがいい。
『億女』は一条響さんが初めて出した本。年間7億円(!)も売り上げる彼女がキャバ嬢になったきっかけ、ナンバーワンに君臨し続ける理由、自分一人で立ち上げて経営しているマツエクサロンのこと。そしてコロナのこと。どれも飾らない言葉で語られている。インスタのストーリーを追いかけるだけじゃわからない横顔が面白い。そして「まぶしい!」と思うだけだったトップキャバ嬢の世界が少しだけ覗ける。
「おカネかかりそうやな」は最高の褒め言葉
とにかくあちこち痛快な本だ。たとえば「どうしたら売れっ子キャバ嬢になれる?」という章にこんなくだりがある。
「どうやったらお客さんつかめますか?」
って女の子から聞かれることがよくある。
でも、そういうのってひとりひとり違うと思うんです。
だから、そんなざっくりした質問だと、聞かれても答えに困る。
「そんなざっくりした質問、答えに困る」って正直な答え。このサバサバした感じ、淡々とパンチが効いてていい。でもちゃんと「答え」のいくつかを教えてくれるんですよね。
いくら素晴らしいことを言ってたりしても、自分自身の価値が低いと、おカネを遣ってもらえない。
たとえば、むちゃくちゃ面白くてめちゃくちゃ可愛くても、身につけてるものや喋り方がよくないと、
「じゃあお前、吉四六(焼酎)でいいや」
ってなっちゃうかもしれない。
この子には、おカネを遣わなきゃいけないって思わせるためには、自分で自分の価値を上げること。
キャバクラで売り上げナンバーワンになるって、そうか、お客さまにおカネをめっちゃいっぱい遣ってもらうこと。売れっ子キャバ嬢がみんなキラキラしているのは、それがお仕事を進める上で大切な姿勢だから。たしかにキャバクラの世界以外でも「姿勢がしゃんとしてるな」「スーツがきれいだな」って相手のことをさりげなくチェックしている。
私はよく、
「おカネかかりそうやな」
って言われるんです。
でもそれって、結構、最高の褒め言葉だと思う。
こいつには「ヴーヴ・クリコ(リーズナブルなシャンパン)」でいいやって思わせるか、「アルマンド(高級シャンパン)」入れなきゃって思わせるかは、自分次第じゃないかなって思います。
「おカネかかりそう」が褒め言葉って気持ちいい。インスタで見る一条響さんのメイクも髪の毛もドレスもグラフの時計やピアスもピシッと綺麗な理由がわかった。あれ、自己ブランディングの究極形なんだ。
私は自分のことを商品だと自覚しているので、自分で高いハイブランド品を買う。お客さまに対するマインドコントロールでもあると思う。
(略)飲みに行っておカネを遣うくらいなら、ひとつでもハイブランド品を買って自分で身につけること。(中略)
自分が自分に投資しなかったら、お客さまも投資してくれないと思うんです。
強い! 強いし、わかりやすい。「メンタル最強キャバ嬢」と称される人の頭の中ってクリア。たとえば、「高いお酒を頼んで(お客さまに)切られたらどうしよう」と悩む新人キャバ嬢に、響さまは次のような強い助言をくれる。
でも、お客さまは、いつかは切れるもの。
怖がって高いお酒を口に出さないでいるよりも、ちょっと高めのお酒をお願いして、それで断られたらそれはそれ。
でも、最初から高いお酒を頼まなかったら、そこで終わっちゃう。(中略)
断られるのが怖いっていう、そのプライドは捨てましょう。
蛍光ペンでグリグリと印をつけたくなるくらい良いアドバイス。強い滝に打たれる気分だ。
「有名キャバ嬢で連絡が返ってこないのは響だけ」でも、接客は全力
お客さまが同じタイミングでお店にいらっしゃるとき(いわゆる「卓被り」)の話も面白い。
まず大前提として、
やっぱりおカネをたくさん遣っていただいた人に長くつきます。
とのこと。当然です。でも中座するって難しくないのでしょうか? お客さま、ムッとしたり寂しくならない?
席を抜けるときは、ボーイさんが、
「響さんお借りします!」
と言ってくれるので、「借りられてくるね~」とか「すぐ戻るね」って感じで行きます。
違う卓に行ったら、またハイテンションで入ります。
「借りられてくるね~」ってかわいい。しかも席をはずしている最中のフォローがさらにかわいい。
席についていないときも
「ごめんね」といったスタンプや、
「もうすぐ戻るね」って
LINEを送ったりしていますね。(中略)
「あとでLINE送るから見てね」
と言って抜ける。
とにかく店の中では全力。
楽しんでもらうようにしています。
お目当ての彼女を待つ時間もちょっと楽しそう。いいな。しかも、お店にいるときに全力でLINEをするのは、それが「接客」の一つだから。つまりお店の外では返事をしないことも。「有名キャバ嬢で連絡が返ってこないのは響だけ」とお客さまに言わしめる響さん。ハッキリしてて気持ちいい。
そして、お客さまに「(お店に)来て」とも言わないそうだ。ここにもキャバクラで働く上での彼女なりの考えと強い理由がある。「来て」と言わなくてもお客さまは響さんのところに来てしまう。読んでなるほどなあと思った。
一貫して「人を動かす」エピソードが続く本だ。マツエクのお店でも、キャバクラのディレクターとしても、人を動かすことに心を砕いて働いている。そりゃ7億売り上げちゃうよなあ。
ちなみに、「これはちょっとひどい話になっちゃうけど」という前置きで語られる「おカネのない人にどう遣ってもらうか」っていう、実現不可能に見えるのに実現できてしまう作戦も大変痛快でかっこよかったので、絶対に読んで確かめてほしい(いい話です)。
レビュアー
元ゲームプランナーのライター。旅行とランジェリーとaiboを最優先に生活しています。