毎朝のメイクは、なんとなく。そうとしか言いようがないほど、いつもの道具とコスメをぼんやりと使っては、「見慣れた自分の顔」を出現させている。たまに気になった新作コスメへ手を伸ばすこともあるけれど、朝の忙しさや不慣れが立ちはだかれば、あっという間に使うのが面倒になって、そのままお蔵入りにしてしまう……。
そんな日々を繰り返している私の目が、本書の冒頭で釘付けになった。
「このコスメ、私には合わなかった」「せっかく買ったのに、全然よくない」
大なり小なり、誰もが感じたことがあるコスメに対する不満であり、これを読んでいるこの瞬間にも、ひとつやふたつ、そう感じているコスメが手元にあると思います。
実はこれ、私のレッスンでもよく上がる声。でも使い方のアドバイスをちょっとさせていただくだけで、「こんなにイイものだったんだ!」と驚かれます。
まさにその通りで、思わずぶんぶん頷いてしまった。そして自分だけでなく他の人も同じような思いを抱くことにホッとしつつ、著者が行っている「使い方のアドバイス」が知りたくなって、続きを読んだ。
では、どうすれば、コスメと仲良くなれるのか? 答えは、シンプルなことの積み重ねです。まず鏡を見て、しっかりと手で圧力をかけたり、ふっとチカラを抜いたり。(中略)「複雑で難しそう!」と思うかもしれませんが、この本では、ズバリ“この時はこう!”と決めてあるから、大丈夫。
現状と気持ちをすっかり見透かされた上に、先回りで励まされてしまった。バシッ!と背中をたたかれた気分。さらに「今、手持ちのコスメでOK!」まで丁寧にフォローされたら、もうあとは挑むしかない……! ベーシックなメイクと、その先のカラーメイクの楽しみ方まで。まずは素直に読んで、書かれているとおり試してみることにした。
ちなみに本書は、肌づくり、彫りづくり、カラーメイクの3部構成になっている。中でも見慣れない言葉の「彫りづくり」とは、すっぴんの状態でも深い彫りを持つモデルさんのような顔を目指して、私たちの顔を彫り深く見せるための準備と手法を指している。そうして事前に「彫りをつくる」ことで、モデルさんのようにカラーがきちんと映えるようになるという。メイクは「描く」ことだと思っていたけれど、どちらかと言えば「つくる」こと、つまり「顔づくり」と言う方がふさわしい。
肌づくりの章では、お悩み別による下地選びからはじまり、ファンデーションの説明へと続いていく。塗り方にはステップ1と2があって、1では薄く全体塗りを。2では、「目の下の美肌ゾーンに重ね塗り」をするため、「追いファンデ」なる言葉も登場! 「追い鰹」とか「追いパク(パクチー)」あたりはよく耳にするけれど、ファンデーションにも二度目があってよかったとは。実際にやってみると、一度に塗るよりも浮かずに、ムラなく重ねられた。ツヤも普段より出ているような気がする。
この後は彫りづくりの章へ。ここでなによりも感動したのは、アイラッシュカーラーの使い方! プロセスの1から3はよく知られている方法で、まつげの根元を挟んでから起こし、中間から毛先まで上げていく。「これは私でも知っているな」と思った、次の瞬間。プロセス4の「ワキを開いて、ひじを上げて」という指示が目に飛び込んできた。え! 腕を、使う?
それも、「ひじを上げる」って……!?
半信半疑で写真を見ながら、おそるおそる試してみる。背筋を伸ばして、ぐっとワキを開き斜め上にカーラーを引き上げた。すると、ふだんよりもきれいにカールされたまつげが誕生! 「本当にできちゃった」としばらく呆然とするも、くるん!と上がったまつげが嬉しくて、鏡に見入ってしまった。手先だけでなく、腕も、身体も動かしてメイクする。こんな方法があったなんて。
全体を通して、写真と説明がとても丁寧でわかりやすい。さらに、動作の中には擬音が多く取り入れられていて、覚えにくい部分もその音を思い出しては乗り切ることができた。たとえばリップの塗り方は「ぐりぐり」「さすさす」の二択で、軽やかな感じでつけたい時が「さすさす」。動作と音がリンクしているので印象に残る。
これまで独学でメイクをしていた人や、手持ちのコスメを活かしたい人、何をどうしたらどの効果につながるのか、わからなくなってしまった人には特効薬となりそうな1冊。ちょっとしたコツで仕上がりが違ってくる、それが楽しくてどんどん試していけば、「あたらしい自分の顔」ときっと出会えるはず。おさらいと新規開拓をめざして、ぜひ!
レビュアー
元書店員。在職中より、マンガ大賞の設立・運営を行ってきた。現在は女性漫画家(クリエイター)のマネジメント会社である、(株)スピカワークスの広報として働いている。